悠の詩〈第1章〉

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 車で来させてしまったから、せめて駐車代を出させて下さいと柏木のお父さんから言付かったらしく、柏木がパーキングまで見送りに付いてきた。

 柏木が機械に入金して、輪止めが下がったのを確認すると、コタ先生はスルスルと車を進めて、柏木のすぐ傍で止めてウィンドウを開けた。

「柏木ありがとう。お父さんに宜しく伝えてくれ。
 柏木の頑張ってる姿を見れて、先生はラッキーだ。
 あまり無理をするなよ。お父さんも…自分の趣味の延長に縛り付けるつもりはないと言ってたから。
 中学校生活、まだ始まったばかりだし楽しんでいこうな。
 また明日、学校でな」

 コタ先生の言葉に複雑そうなカオをしながら頷いた柏木は、ふと俺に視線を投げて「あっそうだ、コレ」おもむろに片肘を上げた。

 その手には中くらいサイズの紙袋。

「環奈さんがくれた残りのやつ、持ってって。意外に色々買い込んでた(笑)
 じゃあ、気を付けて帰りなよ。
 ハ、ル、ミ、ちゃん」

「なっ!」

「くっくっ。後藤くんが、ポロッと言っちゃってたからね。
 あ、ダイジョーブダイジョーブ。もう二度と言わないから(笑)
 バイバイ、柳内。先生、さよなら。千晴先生にも宜しく伝えて下さい」

 動揺する俺をよそに、車は発進して、柏木は大きく手を振った。





「こら柳内ぃ、言わないでくれって頼んだのに、もうバラしたな?」

「え? なんのコト? ピーピピー」

「このー、知らないフリか。柏木が、やたらニヤニヤして俺を見るからな…
 ほんとに、そのクチ縫ってやろうか」

「えーっ、暴力反対~。自分だって、千晴先生を」

「とにかく、ほんと気を付けてくれよ、もう。
 さあ、暗くなる前に送り届けたいから、安全運転で急ぐぞ」

「はーい。(急ぎの安全運転ってなんのこっちゃ)」

 街灯が灯りだした、流れる景色をぼんやり見つめながら考える。

 気難しいのは変わらずだけど、少しだけアイツの懐に入れたみたい、

 それにしてもアイツ、やっと名前を呼んだと思ったらハルミちゃんだの、柳内って呼び捨てだの。

 樹深には君付けなのに? そうそう樹深のヤツ、俺の知らねえ所で油断ならねーでやんの。明日学校で釘刺しとこ。





 こうして、今までで一番濃い内容だった家庭訪問の一日が終わったのだった。





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