悠の詩〈第1章〉

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「へ、え。そういうこと」

「…ナニが? 私、詳しく言ったつもりはないけど」

「まあ、確かに核心な事はちんぷんかんぷんだけどさ、とにかく複雑なんだってのと…
 あと、オマエがきったねぇ海だなって見てたワケじゃなかったんだ、ってのが分かった」

 険しい顔をしていたのが、俺の言葉で一瞬で緩んだ。

「…いや、きったないなとも思ってたけど(笑)」

「まじか(笑) そこは黙っとけよ(笑)」

「(笑)
 けど…キライじゃないんだよ。
 この町からの、工業地帯を挟んで広がる鈍い色の海も…悪くない」

 さっきの劇の続きか? っていうくらい…柏木の言葉はクサかった。

 実在するかどうかは知らないけど、どっかの国の道端の詩人みたいだった。

「クサいコト言ってんな、ってカオしてら」

 ずばり言われてギクッとする俺を気に留める事もなく、貰ったお菓子を頬張る柏木。

 ふと、その咀嚼の動きを止めて、俺をじっと見てきた。

「…念の為に言うけど、今話した事は誰にも言わないで。
 私の家の事も。この劇団の事も。
 …
 …
 …はあ、なんでキミに話しちゃったかな、私は。
 事情知ってるの、先生だけなのに」

 ゴクリと流し込んでから、柏木はそう言った。

「コタ先生だけ? ちはっちゃんも、なんか知ってるっぽかったけど」

「は、コタ? ちはっちゃん?」

「土浦先生と千晴先生だよ。あのふたり、幼馴染みなんだってさあ。
 …あっ、コレ、ヒミツなんだった」

 目を丸くする柏木を見てからしまったと思っても、もう遅い。

「キミ…真面目なハナシ、その軽いクチをどうにかしなよ?」

 柏木の冷たい視線を受けて、俺は縮こまって反省した。堅くなれ、俺のクチ。





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