悠の詩〈第1章〉

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 柏木がそんなだから、柏木の色々を聞き出す、なんて意気込みはどっかへ飛んでった俺。

 ところが…柏木は気難しい顔をしながらだけどポツポツと話し出したんだ。

「うちは…ちょっと複雑な家庭なんだよ。
 今、お母さんいなくて…
 いや生きてるよ、事情があって海外に行っててさ。
 ここ数年…長く海外に居て、ちょっとだけ日本に帰ってくる、その繰り返しだったんだ。
 その頃はおばあちゃんに私の面倒をみて貰えたし、お父さんもお母さんの挑戦を応援してて…
 それが…年明けにおばあちゃんが亡くなって、一変して…お父さんとお母さんが喧嘩を…
 …あー…もう…キミに聞かすようなコトじゃないんだけどな…
 ともかく、籍は抜いてないけど、お父さんとお母さんは別々の暮らしをする事になって。
 悠はどっちの生活を選ぶの? と言われて私は…
 海外での暮らしなんて想像出来なかったし、劇団に興味があったから、お父さんとの生活を選んだ。
 お母さんは…私の入学を見届けないで行っちゃった。
 最後に三人でホテルで食事して一晩過ごして…朝起きた時にはもう、お母さんは旅立っちゃった。
 海の向こうに、どんな大事なことがあるっていうんだろう…」

 下流へ、いずれ海へ流れていく水を目で追う柏木の横顔は、あの時と同じ表情だった。

 あの日に対する何故、がこれで解決した気がする。





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