悠の詩〈第1章〉
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「柳内、話が終わるまで柏木と待っててくれ」
先生に言われて、柏木はあからさまに嫌そうな顔をした(失礼なヤツ)けど、
「じゃあ…こっち。ついておいで。お父さん、裏に出てるから、終わったら声掛けて」
俺の二の腕辺りの袖を引っ張って、ステージの脇の非常扉から外に出た。
非常口の先は、多分関係者以外は立ち入れない細い通路。
肩の高さほどの柵が右から左へ続いて、その下に川、というか水路があった。
お世辞にも綺麗と言えない水質、そんなでも魚は泳いでいるし、どこかのボートなんかも岸に停まってる。
「は、あ…知られたくなかった。キミさあ…キミまで、来なくてよかったよ?」
柏木は柵の上に両肘を乗せて、組み手に額を押し付けながらうなだれた。
「しょうがねえだろ。俺だってなー、一応聞いたよ? そしたらさ、先生が柳内も来いって言うから」
そう言いながら俺が隣に来ると、柏木はちらっと視線をよこしたけど、すぐに眉間にしわを寄せながら目を伏せて、今度は上へ仰いだ。
「どこまで…知ってる?」
「どこまでもなにも、さっぱりわからん」
「ふっ。先生、何も言ってないんだな。そっかあ。だったら…尚更連れてこなくていいのにさ」
またいつもの抑揚の無い話し方の柏木。さっきのステージの上でのアイツは一体何なんだ、ってくらい落差大き過ぎ。
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