悠の詩〈第1章〉

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「悠! オマエはほんとに…」

 またあのおじさんが柏木に吠えに掛かる、けど、今度は柏木は怯まずに、

「お…座長、休憩入れて下さい、お願いします」

 角度よく頭を下げて、それから俺達の方へ視線を送った。

 座長(ってナニ?)と呼ばれたその人は、まだ恐い顔をしながら柏木の視線の先を見ると、「!」目ん玉が飛び出そうな程に眼光して、

「やべえ! もうそんな時間なのか!?
 休憩10分! いや15分、いやいや20分…休憩でそんな時間取ったことねぇのに…しゃーない!
 俺は大事な話をここでするから、お前ら全員スタジオの外に出てるように!」

「ハイ!!」

 おじさん以外のステージ上全員が声を揃えて返事をして、出入口は俺達がいるここしかないので皆がゾロゾロやって来て、

「こんにちは」

「いらっしゃい」

「狭い所ですが」

「ゆっくりしていって下さい」

 口々に言いながら出ていった。

 最後尾におじさんと柏木が来て、コタ先生が、

「担任の土浦です。お忙しい所、時間を作って頂いてありがとうございます」

 と一礼すると、さっきまでの形相はどこへやら、おじさんは急に低姿勢になって、

「とんでもない! こちらが都合を押し付けてしまったので…こんな所までご足労頂いて恐縮です。
 先程も、つい夢中で…気付かずにすみませんでした」

 ペコペコと頭を下げた。

「先生…いらっしゃい」

 どことなくモジモジしながら言う柏木、見られて恥ずかしかったらしい。

「ハッハッ。柏木、凄いじゃないか。あんなに堂々と…プロみたいだ」

 先生が褒めると、柏木はますます縮こまって、「いや、コイツはまだまだなんで…」とおじさんが小言を飛ばす。

「先生、私いなくてもいいんですよね? お父さん、私も外に出てる」

 へ、このおじさん、柏木の父ちゃんなの? 全然似てねえ。





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