悠の詩〈第1章〉
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コタ先生を見ると、コタ先生も俺を見た。多分同じ事を思ってる。
コタ先生が扉に手を掛けた時、俺の喉は派手に音を鳴らして、扉の向こうから差し込まれる光が徐々に俺と先生を照らした。
目の前に広がった光景は…
縁に数個のフットライトが並べられた、学校の体育館より狭くて低いステージ。
その上で5、6人が何か冊子を広げながらウロウロしていて、その中のひとりが声を張り上げた。
「僕が来れなかった間に、一体何があった…?
ねえアンナ、僕を真っ直ぐに見つめておくれよ。
僕と過ごした楽しい時間も何もかも、忘れてしまったというの…?」
(う、わ、あ)
俺はひゅっと息を飲んだ。
そう、それは柏木だった。先程の声も。
半袖のデニムのツナギを着て、腰に白いパーカーを巻いて、学校では決して見せない、様々な表情や仕草を繰り広げている。
アイツ、あんなでっかい声出せんの?
アイツ、あんなオーバーアクションするヤツなの?
しばらく目を見開いてそれを眺めていた、多分口も少々開いてたと思う。
「悠! 何度言えば分かる、そこはもっと絶望を込めて」
ステージの隅で腕組みをしていた髭面の男が、持っていた冊子でももの辺りをバンバンと叩いて、ライオンみたいなでかい声でがなり立てた。
柏木だけじゃなく他の人達も、俺もコタ先生も、竦み上がって一瞬時間が止まった。
柏木が悔しそうな顔をして「ハイ」と答えると、額を手で拭ってから、また正面に向き直った。
「ああ、アンナ、僕は…
僕…
…
…
…!!?」
あ、アイツ、やっとこっちの存在に気付いたらしい。
口がパクパクしたまま言葉が出ない、口の動きからすると【何でここにいるの??】と言おうとしている柏木に申し訳なさが立って、
(ちょっとおじゃましてます)
と心の中で呟いて、酔っ払いのサラリーマンがするみたいに顔の横で手を垂直に掲げた。
隣のコタ先生も、同じ動作をしてた(笑)
…