悠の詩〈第1章〉
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いよいよ。入学式の朝。
「かあちゃん! とうちゃん! ネクタイってどうやるんだっけ??」
「なんだ、練習しなかったのか?(笑)」
おろしたてのワイシャツ姿で2階からドタドタと急な階段を駆け下りた俺に失笑したのは、会社に出る前のとうちゃん。
とうちゃんは既に身に付けた自分のネクタイをシュルリと解いて、「こうしてこう」とやり方を見せてくれた。
とうちゃんの横に並んで、「こうしてこう?」と真似ると、「その調子」ととうちゃんはニカッと白い歯を見せた。
なんとか無事に締められた、うう、首が窮屈だぜ。
学ランがよかったな、何でうちの中学ブレザーなんだよ。
「着替える時全部ほどかないで輪っかにして脱げば、いちいち締めないで済むぞ(笑)」
とうちゃんが俺にこっそりと耳打ちをしたけど、かあちゃんに丸聞こえで、
「おいこら! しょうもないこと教えないの(呆) 春海、ちゃんと覚えないと許さないよ」
朝食の目玉焼きを作りながら鬼の形相でかあちゃんが言うので、「「はあい」」と俺ととうちゃんは肩を竦めた。
とうちゃんは仕事だから、入学式にはかあちゃんだけがついてくる。
とうちゃんが家を出る前に、家の前でとうちゃんと、次にかあちゃんと、最後に3人でセルフタイマーで写真を撮った。
「春海、がんばれよ」
俺の長めのスポーツ刈りの頭をくしゃりと撫でて、とうちゃんは仕事へ行った。
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