悠の詩〈第1章〉

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「わあいいの? やっさしーい、コタ先生」

「ばっか。お前ほんといい加減にしろ」

 さすがにもうからかえないと思ったか、千晴先生はしゃんと背筋を伸ばしてコタ先生に言った。

「ふふふ。わかりましたよ。いただきます先輩。
 柳内くんも取っていきな」

「どうもっす。あ、これウチのお煎餅だから。千晴先生食べて」

 コタ先生のデスクでお菓子の物色をする俺と千晴先生、その後ろでコタ先生がさほど軽くない溜め息をつく。

「はあ…ほんと気をつけてくれよ、ち、赤木先生。柳内も。学校だからな、学校。
 さあ、もういいか? 先生の車で柏木の所に行くからな、柳内」

 コタ先生こそ、うっかり呼んでしまわないようにしなよ。

 そして、今、なんかすごいことをサラッと言ったか?

「え、え? 今、何て? 車??」

「そうだよ。市街地まで出ないといけないんだ。陽が落ちるまでにはお前を家まで送り届けないと。
 さあ、早く乗ってくれ」

 言われるまま職員室を出て、体育館の脇の職員駐車場に停めてあったコタ先生の車に乗り込んだ。

 千晴先生もそこまで見送ってくれて、

「次は柏木さんのお家なのね。柳内くん、柏木さんに宜しく伝えておいてね」

 少し開けたウィンドウから俺にそう言った。

「え? どうして…あ、そうか、アイツも天文部だったか」

「そうそう。事情があってなかなか部活に来れないんだけどね…
 いつでも待ってるからねって、伝えてくれる?」

「了解」

「ち、赤木先生、下がって。出発するぞ」

 千晴先生が車から離れて耳の高さで手を振るのをミラーで確認すると、コタ先生はスルスルと車を走らせた。





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