悠の詩〈第1章〉

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 そんな先生の背中を見送った後、ガタッと物音がして、俺はひっと飛び上がった。

「土浦先生、今度こそ終わったの?
 …あれ、君は確か、土浦先生のクラスの」

 もうひとつの引き戸のすぐ近くに給湯室の出入口があって、そこからヒョイと顔を出したのは…家庭科の赤木あかぎ千晴ちはる先生だった。

「千晴先生! 俺、柳内です」

「そうそう柳内くん。後藤くんと由野さんとよく一緒にいるよね。
 土浦先生の声がしたと思ったけど…気のせいだった?」

 今年度から新任してきた、幼さの残る可愛らしい千晴先生。まだ全ての生徒を覚えてるわけではないみたい。

 樹深と由野の名前が出てきたのは、千晴先生が天文部の顧問だからだ。

 俺が名前呼びをするのは、アカギ先生がもうひとりいて(字は違うんだけど。赤城と書く)、そちらと区別する為。

 赤城先生は名前で呼ぶとめちゃくちゃ怒るけど、千晴先生は今みたいにニコニコ顔で応えてくれる。

 密かに心の中ではちはっちゃんって呼んでる事は、内緒。

「トイレに行ったよ。相当ガマンしてたみたい(笑)」

「あぁ、またなのね。これで三度目(笑)
 それで、柳内くんは? 私服でどうしてここにいるのかな?」

「えっと、俺は…」

 言いかけた所で引き戸がまたガラリ、コタ先生が戻ってきた。





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