悠の詩〈第1章〉

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(柳内くんは、クラスのムードメーカーで…)

(おほほ…うちではうるさいだけですけど…元気だけが取り柄で…)

 二人の声がでかいので、上まで筒抜けだ(苦笑) まあ、悪い事は言われてないみたいだからいいけど。

 それにしても長い。今日出た宿題も終わって、復習も珍しくやったのに、まだ話してる。10分程ってプリントに書いてなかったっけ?

「春海」

 下からかあちゃんがやっと呼んだ時には、30分を越えそうだった。

 俺が階段の上から顔を出すと、先生が見上げながら言った。

「柳内、一応みんなに最後に部屋見せをお願いしてるんだけど、お前は大丈夫か?
 強要じゃないから、嫌なら断ってくれ。ちなみにこれまでの確率は半々だな」

 小学校生活では、家庭訪問で部屋を見る先生は一人もいなかった。

 だから今回かあちゃんに言われて渋々片付けはしたけれど、どうせ見ないだろって思ってた。

「ほんと? じゃあ見てってよ、コタ先生」

「えっ?」

「え? だから…あ!」

 口に出してしまってから気付いた、先生は知らないんだった。

 土浦恒太だからコタ先生、俺達が密かにそう呼んでいる事を。

 先生が目を丸くして、その後ろでかあちゃんが【おばか!】と口パクしたのを見て、慌てて口を手で覆ったら、先生は笑いながらこう言ってくれた。

「ハッハッ。俺のアダ名か? いいな、それ。
 学校の中だとマズイけど、今は外だから。好きに呼んでくれ(笑)
 で、見てっていいのか?」

「見てってくれなきゃ、俺の努力が報われないよ~。早く来てよ、コタ先生」

 これ以降ずっと、学校の敷地内以外ではコタ先生と呼ぶ俺だった。俺に対する樹深の呼び分けがいい見本になっていた(笑)





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