悠の詩〈第1章〉

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「先生、いらっしゃい。ちょっと遅いよ」

「そうだよな? すまん、遅くなって」

 おでこに光る汗をハンカチで拭きながら先生は言った。

 そう、予定時刻より15分オーバーの先生の到着。

 この日は俺ん家の近所で回っていったはずなのに、何でそんなに時間を食ってるのか。

 ともかく先生を中へ招き入れると、かあちゃんが騒々しく現れた。

「まあまあ先生、ようこそいらっしゃいました。
 狭い所ですがどうぞお上がり下さい…
 今日はお天気で外は暑かったでしょう? どうぞこちらへ、冷たいお茶を…」

「いやいや、柳内くんのお母さん、どうかお構い無く…」

 かあちゃんと先生が奥に行くのを、後ろからついていきながら思った。

 確か家庭訪問のプリントに、お茶やお茶請けはご遠慮させて頂きますとかって書いてなかったっけ?

 ダイニングテーブルに、先生に出す気満々のお茶とお煎餅がどんと置いてあるじゃんか(苦笑)

「先生、どうぞソファーに。春海、お茶運んで」

 何で俺? そこはかあちゃんなんじゃないの、とは思ったけど、頼まれた事はすぐにやると仕込まれている俺。

 きびきびと先生の前に冷えたお茶と個包装された煎餅数個を乗せたお皿を出した。

「ありがとうなぁ。
 柳内、お前もここで話聞いていくか? 先生はどっちでもいいんだけど」

 先生はそう言ったけど、かあちゃんの目が【上で勉強でもしていろ】と言ってた(気がした)ので、「上にいるから」と言って自分の部屋に籠った。





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