悠の詩〈第1章〉
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「え、アイツも?? だってアイツ」
一番びっくりした、柏木の入部。だってアイツ、先生にお任せなんて書いてたじゃんよ。
って口を滑らせそうになったけど、あの時の柏木の冷たい視線を思い出して、ギリギリ口をつぐんだ。
「だって…ナニ?」
「あ…いや。ふーん。ほら、てっきりバレーかバスケかと」
「だよね。実際、春海ちゃんが言ってた通りに先輩達の勧誘に遭ってたの見たけど…突っぱねたみたいだね。
初活動の時に初めて知って、由野さんがめっちゃ喜んでた(笑)」
由野のやつ、なーんも言ってなかったけどな。さてはひとりで喜びを噛みしめてたか?(笑)
「ふーん。まあ、みんな部活動に精を出してて何よりだな。
…あっ」
公園を出て、樹深の家に向かうには更に下へ下らないといけないんだけど、ふと途中で振り返ると、坂を上っていく二つの人影。
(あはは、やだもうー)
だいぶ距離が空いてたから聞こえたのは微かだけど、笑い方で由野だと分かった。もう一人は…
「春海ちゃん? どうした」
俺が足を止めたので樹深も振り返る。
「アレ、由野だな。それから…柏木」
「え、ほんと? あー…ほんとだ。春海ちゃん、よく分かるね」
「俺目ぇ良いから」
「そうだけど。でも、私服姿だと分からなくならない?
由野さんはともかく、柏木さんは…男の子みたいなのに(笑)」
分かるのは当たり前。この時の柏木は、海を見つめていた時の格好と同じだったからだ。
この話を樹深は知らないから、いちいち説明するのも面倒で黙ってた。
「声掛ける?」
「ええ? こんな距離空いてんのに? いいよ、それより早くお前ん家行こうぜ」
「はいはい」
イッサが家で休みたそうにグイグイとリードを引っ張るので樹深が一歩先へ行く、その隙に俺はもう一度柏木達を振り返った。
どういう経緯で二人が一緒にいるのか分からないけど、確実に仲が進展してるように見えた。
教室では見たことがない、歯を見せて素で笑っている柏木が、そこにいたからだ。
俺にはニヒルな笑いしか見せないのにな。
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→【悠の詩】中間雑談・2
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