悠の詩〈第1章〉
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「春海ちゃん、この後ヒマ? よかったらうちにおいでよ」
「お? 行ってもいいんか」
「もちろん。イッサも来てって言ってる(笑)」
イッサが体の側面を俺の脛に擦り付けるのを見ながら樹深は笑った。
「あ、でも俺、夕方からまた出ちゃうけど。
本当は午前の内にプールに行きたかったんだけど、母さん出掛けちゃうし。
帰ってくるまでイッサをバトンタッチ出来ないんだよね」
「うちのかあちゃんと、知ってんだろ? 夕方までに帰るか? あのふたり(笑)」
「うわあ~、ありえる~(笑)」
そんな話をしながら、俺達は公園の敷地を出ようと坂を下っていった。
樹深は水泳部が無くなったのを落胆してたけど、週に一度、わざわざ近くの市営プールまで足を運んで泳いでるらしかった。
施設利用料が安いから、自分のこづかいから払ってるんだって。俺だったら絶対かあちゃんにせびってるぜ。
「あっそういえばお前、部活。結局何に入ったんだよ? 俺、なんも聞いてねえけど」
「あれ、そうだっけ? 言ってなかった?」
「そうだよ」
まあ、聞くのを忘れて流してた俺も悪いけど。
「えーとね、天文部」
「…へっ?」
「だから、天文部」
「えーっ! 運動部じゃねえの??」
グラウンドで色々体験してるの見かけてたから、文化部はありえないと思っていた俺。
「だったらプールになんて通わない(笑)」
「それもそうか…え、決め手はナニ」
「んー? 俺、星とか宇宙にけっこう興味あるし」
「うそーん。初耳ですけど(笑)」
「言ったコトないですし(笑)
活動も週1でのんびりだけど、その分泳ぎに行けるから助かる。
あとね、夏と冬に星座観測の合宿があるの。それが楽しみ~」
「うおーマジか。いいなそれ」
樹深の選択に驚いたけど、楽しそうだからいっか。
「あれ、天文部っていや由野もそうじゃなかったか?」
回収の時にチラッと見えたのを思い出す。
「よくご存知で。あと柏木さんも」
…