悠の詩〈第1章〉
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すぐ近くに美味しいパン屋があって、そこでカツサンドやら食べ応えのある惣菜パンを幾つか購入。
それから、外で食べるにはもってこいの場所へ、俺は歩いて行った。
中学校のそばにある、山の緑をうまく活かした大きな公園。
この辺の子供達の定番の遊び場だったり、運動部の連中が走りに来たり。大人の散歩コースにもぴったり。
桜の木が沢山植えられていて、花見客の為に設置されたベンチやテーブルが至る所にあるので、そこで食べようと思った。
桜満開の時期もいいけど、新緑が眩しい今の風景の方が俺は好き。こもれ陽が心地よくて風が涼やかで。なんて、らしくない事言ってるな、俺(笑)
遊具で遊ぶ小学生達の喧騒が届かない場所でいいテーブルを見つけて、そこに腰を落ち着けた。
買ってきた雑誌をめくりながら、クックッと肩を揺らしてパンを頬張っていると、
「あれーっ、春海ちゃん? ナニしてんの、こんなトコで」
背後から樹深の声が聞こえて、びっくりしてパンを喉につっかえそうになった。
涙目になりながら振り向くと、遊歩道の所から樹深がこちらへ寄ってくる所だった。
樹深の手に赤いリード。その先に繋がれているのは…
「わーっ、イッサ!」
樹深ん家のペット、黒白毛の豆柴犬のイッサ。幼稚園の時に貰われてきたのを、俺も傍で見ていた。
「久しぶりだなー! 俺の事覚えてるかー?」
俺が両手を差し伸べると、イッサは尻尾を振りながら鼻を擦り寄せた。
仔犬の時は何もかも丸くてチビで可愛くて、俺も飼いたい! って駄々をこねたっけ。犬が苦手なかあちゃんに一蹴されて願いは叶わなかったけど。
すっかり大人になったイッサは犬らしくシュッとなったけど、愛らしい瞳とくるんとした尻尾だけは昔と変わらない。
実は梓さん同様にイッサにも会えてなかった俺。たしか、病気をしてしばらく動物病院に預けてたとか言ってなかったっけ。
「イッサ、元気そうじゃん?」
俺が言うと、んー、と少し複雑そうな顔をして、イッサを見下ろしながら樹深は言った。
「まあ、そうね。通院は続いてるんだけどね。前よりは大分元気だよ。
あとは…姉ちゃんが。イッサとの時間をもっと持ってくれたら、ね」
…