悠の詩〈第4章〉
そこから一気に時を現在へ戻す、3学期が始まって冬休みの余韻が無くなった頃。
「ねえ、どうかしたの、彼」
「あ?」
背後から肩を叩かれて振り向く前から声で柏木だと分かった俺は、コイツから絡んでくるなんて珍しいと薄ら寒さを覚えた。
でも当人の視線は俺を通り抜けて話題にしようとしている人物を捉えているので、コイツはこういうヤツだったと妙な安堵を抱く。
「樹深か? そうだよなあ、ちょっとテンション低いよな」
数日前から、いつもの調子が出ていない樹深を俺も気にしていた。
どう出てないのかというと、学期始めに席替えをしてお互いに(例の五人共)遠くなったのだが、そんなでもしょっちゅうこっちにやって来る樹深が、ここ最近自分の席から動かない。
最低限の挨拶はするんだ、おはよう、じゃあね。でもさっさと帰る。元々頻繁に一緒に帰るわけでもなかったけど(部活あるし)、その機会がたまに巡ってもそうならなかったので、流石の俺も訝(いぶか)しんだ。
「何か気に障るコトしたんじゃないの、キミ」
んなワケあるか、根拠の無い否定を柏木にぶつけようとしたところで、柏木が「あ」と声を上げて壁になっている俺の向こうを見ようと身を乗り出した。
何だ? と思って振り返ると、樹深の席にコタ先生が近づいてきて、何か短く声を掛けてから机にそっと滑らせた──しばらく振りに見る樹深専用の交換ノートを。
ペコリと頭を下げてノートを手に取った樹深にまた何か言葉を掛けたコタ先生は、樹深の左肩をポンポンと叩いてから教室を出ていった。
樹深のヤツ、一体いつ先生にノート出してたんだ? 全く見当のつかない俺と、「私以外に提出する人がいるとは」顔には出てないが声色が相当驚いている柏木、このふたつの視線を樹深が遂に拾った。
樹深と目が合ったのはいつ振りだろうか、遠慮する仲じゃないはずなのに、この時は変に緊張して言葉が出なかった。
それは、向こうも同じの様だった。
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