悠の詩〈第4章〉

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「──全員行き渡ったかー? 早速だが名前を書いてもらって…」

 少し時は遡り、入学式からGWに入る直前のある日の事を話しておかなくてはならない。

 コタ先生がクラスの皆全員に配ったそれは、

「先生とお前達との出逢いを記念しての贈り物、というのは建前で(笑) これは、先生との交換ノートです。
 いやいや、何も交換日記をしようってんじゃないんだ。
 お守りみたいなもので…例えば…親には言えない…友達にも言いづらい…誰にも言えないんだけど…紙になら書けるぞって時にな、このノートが役立つんじゃないかなと…先生は思うんだな。
 なあんでもいいんだ。深刻な悩みでも。なんてことのない笑い話とか。思い出話とか。面白かった漫画やテレビ番組なんかも大歓迎。
 愚痴もまあ、強い書き方じゃなければ許しましょう。誰かの悪口は絶対ダメな、先生の心が折れるから(笑)」

 というものらしい。先生が滔々とうとうと説明するのを、俺達は記名しながら聞いていた。

「せんせー、これって絶対出さなきゃダメ? ──ですか」

 くだけた物言いのお調子者な俺は、じろりとひと睨みされて慌てて語尾だけでも丁寧にする。(この頃はまだ今ほど打ち解けていない)

「強制はしません、お前達の自由で構わないぞ。
 提出してくれたら、先生ちゃんと返事書くし。
 先生にだって見せたくないってんだったら、そのまま自分の吐き出しノートにしてくれていいし。
 授業用に使ってくれてもいいし。メモにしてもいいし。らくがき帳にしてもいいし」

 先生がノートの存在意義を並べていく合間に、俺達生徒はガヤガヤと意見を交わし合う。えーどうしようかな、ちょっとめんどくさいな、返事くれるなら書いてみようかな、様々だ。

「そうだ、折角だからGWの宿題にしようか。全員、自己紹介を1ページ書いてくること。
 来月家庭訪問があるからな、皆が書いてくれた事参考にさせて貰うな(笑)
 提出はその1回だけ。後は好きにしてくれ」

 そんな経緯で手に入れたこのノート達は、GW明けに先生が設置してくれた回収ボックスに溢れんばかりに提出されて、先生が全員に返事を書き終えて返却されるまで相当な時間を要したのだった。





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