悠の詩〈第3章〉

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「じゃあこのまま初詣に寄っておひらき、でいいかな」

「柳内くんと後藤くんのおつかいを見届けてからね(笑)」

 夜中通った道をまた通って、律儀に仁王様の所まで戻ってから参道の階段を上る俺達。

 年明け前後ほどでは無かったけど行列は出来ていて、本堂の前に出るまでそれなりに時間は掛かった。

 俺と樹深の頼まれ事と一緒に、皆でおみくじを引いたり、タープテントの下で無料配布していた甘酒をふぅふぅ冷ましながら飲んだりした後、

「あ、私この後家の用事で電車乗ってくからここで。そこの横道から駅に出られるんだったよね?
 今日はありがと、また3学期に」

 由野が持たせたお菓子の袋をガサリと掲げて、柏木はひと足先に俺達と別れた。

 「またね悠サン、気を付けてね」「じゃあなー」柏木の背中を、人混みに紛れて見えなくなるまで俺達は見送った。





 どんどん人が多くなっていって、もうさすがに商店街を突っ切る気力は無かったので、途中の川から一本れて、人気ひとけの無い道をのんびり歩いた。

「みんなどっち? 私はこっちからの方が近道」

「僕はあっち」

「俺ちょっと本屋寄ってから帰る」

「じゃあここらで解散、だな? また学校でなー」

 バス通りまで出た所で帰りの方向がバラバラになり、今度こそおひらきとなった。

 姿が見えなくなるまで手を振り続けて、ひとりきりになってふと、何故だか柏木の顔が浮かんだ。

 見ようとして見たわけじゃないが、日の出に祈る前のアイツは、いつだかの海や川の果てを見つめていた時と同じ顔をしている様に見えた。

 なあオマエ、何をあんなに長く祈ってたんだ?

 さらっと聞こうと思って結局言い出せなかった言葉を頭の中で反芻したけど、

 ──関係ないだろ、キミには。

 出逢ってから随分経ったし、大分馴染んできたとはいえ、すました顔してそう返ってくるに決まってんだ。

 我ながら冴えてる想像シュミレーションに新年早々苦笑いをした後でクシュン、くしゃみをひとつ。

 夜中よるじゅう夜中外にいてさすがに冷えたか、早くコタツに入りてぇなと思いながら、足早に帰途に着いた。










悠の詩〈第4章〉に続く

※公開まで今しばらくお待ち下さい






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【悠の詩】中間雑談・9





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