悠の詩〈第3章〉

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「──あっ柳内くん起きそう、柳内くん?」

 そう声を掛けられる前から意識は戻っていた。まぶたの外側から白い明るさを感じたし、仲間達の声以外のざわめきも耳に入ったからだ。

 ゆっくり目を開けると、沢山の脚が視界に入ってギョッとした。「なんだぁ??」思わず声を上げると、皆が俺を囲んでクスクスと笑みを落とした。

「春海ちゃんよく寝てたね、もう少しで初日の出だよ」

 差し伸べた樹深の手を取ると勢いよく立たされて、そのまま皆と展望台の柵際へ。

 一体いつからこんなだった? 展望台はもちろんのこと、降りた所の広場にも、俺達と同じ様に友達同士で、あるいは家族で、はたまたカップルで、埋め尽くされていた。

「日の出スポット、だったんかココ」

 そうらしいね、今まで全然知らなかったよ、口々に言いながら視線は太陽が顔を見せるであろう水平線へ。

 水平線を堺に、海と、まだらに浮かんでいる雲が、火事でも起きているんじゃないかってくらいの鈍い赤に燃えていて、ちょっと上の空の藍色とのバランスが絶妙。

 日の出そろそろかな、気がいてつい爪先立ちをする、足がもつれてヨタついた直後に、わっと歓声が沸いた。

 夜が明ける。

 新しい年を、太陽が連れてくる。

 日の出のほんのひと差しがあっという間に、海を、空を、街並みを、俺達を、黄金色こがねいろに染めていく──

 言葉にならず溜め息ばかりが出ていたが、

「あっ、手を合わせないと!」

 由野が声を上げたのをきっかけに、五人揃って御来光に祈りを捧げた。

 今年一年がより良い年でありますように、この後の初詣でも同じ事を祈るけど、こちらの方がご利益がありそうな気がして、つい強く願ってしまう。

 最初に俺が祈り終えて、樹深、由野、丸山と続いたが、柏木だけやたら長いお祈り。

 「ごめん、待たせてる」特に急かしたわけでもないのに、柏木が祈りを止めないままそんな事を言うので、

「大丈夫、いつまでも待つよ」
「いいぞー、オマエの気の済むまで」

 気を遣わないでいい旨を伝えると、いやいやそんな長くならないし、柏木は吹き出しながら祈りを続けた。

 太陽が姿を全て見せた頃に、柏木はふーっと息をつき、「お待たせ、行こっか」顔を上げた。





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