悠の詩〈第1章〉

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 振り返ると、コミックコーナーの所からダボッとした格好の男が恐い顔をして俺を見ていた。そしてゆっくりとこちらに近づいてきた。

 訳の分からない因縁を付けられそうになって、思わず一歩後ずさると、梓さんが「コラ! やめなさいよ」と、まるで弟の樹深を叱るみたいに鋭い声を飛ばした。

 男はハッとなって、「おぅ」とばつが悪そうに小さくなった。

「弟の友達よ。小さい時からよく知ってるの。
 春海くん、こちら同じ高校の三浦くんで…」

 そう言った梓さんの顔が赤くて、え、もしかして。

「…梓ねえちゃんの、カレシ??」

 俺の言葉にさらに頬を赤くして、小さく頷いた。

 その様子に三浦は勝ち誇った様に笑って、「へー弟くんの」とジロジロと俺を見た。

 「どもです」と一応会釈したものの、なんでこんなのが? という疑問が沸くのは、ただの俺の嫉妬なのか。

「あず、まだバイト終わんないのかよ。俺ずーっと待ってんだけど」

「もう少しだから。そしたら一緒にお昼食べに行こ」

 いや、単純にコイツが自己中だからだわ。梓ねえちゃんも甘過ぎ、何でそんなニコニコしてんの。

 その場にいるのがあほらしくなって、

「じゃあね梓ねえちゃん。バイトがんばって」

 と早口で言って出てきた。

 出る時に一度振り返ったら、梓さんは手を振ってくれてたけど、三浦はスカした顔して目も合わせなかった。



 俺の密かな初恋は、こうして幕を閉じた。なんて言えるほど気持ちは燃え上がってなかったけど。

 でも、憧れのお姉さんがよりによってあんなのと。もっとかっこよくて爽やかなのがよかったな。

 なんて考えてる内に、俺のお腹がぐーっと鳴った。そういやもうお昼過ぎてんだっけ。

 今日は家に誰もいない、とうちゃんは仕事、かあちゃんは樹深のお母さんとショッピングだって。

 昼メシ代は貰ってたから、どこかで買って、そうだな久しぶりにあそこの公園で食べるか。





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