はるみちゃんとぼく

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 こうしてやっと帰途に着いた僕達。普段の就寝時間をとっくに過ぎていて、球場のすぐ近くでタクシーを拾って帰る事にした。

「坊や達ナイター帰りかい? おじさんもラジオで聴いてたよ」

 運転手のおじさんがバックミラー越しに話し掛けて、王者チームに叶わなかったけど、一度きりのホームランにはしびれたねぇ、兼庄選手の活躍を誉められて僕達は心の中でニヤニヤした。

 家までの道中、僕達は色々な話をした。

 兼庄選手かっこよかった、と顔を赤くしてお姉ちゃんが言って。

 (それを聞いてかどうかは定かではないけれど)おれ野球やる! と春海ちゃんが意気込んで。

 じゃあ春海ちゃん、おじさんイチオシの野球漫画貸そうか、野球少年にはたまらないぞ、とお父さんが提案して。

 読む読む! と春海ちゃんが食いついて。

 そうこうする内に、車内が徐々に静かになって…タクシーの揺れと楽しかった一日が相まって僕達子供は眠りに落ちた。

「ふふ、寝ちゃいましたね。こんな遅くまでひっきりなしに動いたもんなあ」

「後藤さん、今日は本当に楽しい一日をありがとうございました。
 今度、お礼がてら飲みにいきませんか。美味しい焼き鳥屋知ってるんです。
 っていうか、これからもちょいちょい誘っていいですか(笑)」

「えっ? いいんですか? 俺なんかで? うわあ、嬉しいです!」

「もちろん。我々の奥さん達には言わないでおきましょ、男同士のヒミツってことで(笑)」

「(笑)(笑) りょーかいです。
 よっしゃあ、また明日から仕事頑張れるぞお」

 お父さん達が僕達を起こさないように小声でそんな事を話していたことは、知らずにいる。





 また、日常が続く。

 でも、この夏の日の素敵な出来事は、僕を、そして春海ちゃんを変えた。

 僕は前より自信を持つ事が出来て、人前でハキハキと喋る…様になるにはまぁ、もう少し時間が掛かりそう。

 春海ちゃんは夏休み中に少年野球チームに入って、すぐに大活躍…するにはまぁ、まだまだ時間が掛かりそう。

 でも大丈夫、僕達にはこの、幸せのホームランボールがあるんだから。

 春海ちゃんから順番が回ってきたサインボールは部屋の出窓に飾られて、外の日差しを受けてキラキラと輝いて、夏の青空によく映えていた。





 余談。

「──ごめん、春海をちょっと喜ばせたかったんだ」

 数年後に春海ちゃんのお父さんが嘘のジンクスの懺悔をしてきた時は、「えーっそうだったの?」「まじかよ、学校のやつらに言って回っちまったよ」色々言ってしまったけれど、最後はふたりでニヤリと笑ってこう落ち着いた。



「でもまあ、あながちまちがいじゃないよね?(笑)」










はるみちゃんとぼく〈完〉





[リアルタイム執筆期間]
2019年7月4日〜2024年9月11日






※よければコチラもどうぞ
【はるみちゃんとぼく】あとがき





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