はるみちゃんとぼく

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 エントランスまで連れてきて貰うと、スタッフさんとはそこで別れて、帰りゆく観客ギャラリーの雑踏に紛れ込んだ僕達。

 その波に乗るのかと思ったら、

「そうだ、サインボール立てを買おう」

「そんな物があるんですか?」

「ええ、僕ひとっ走り買ってくるんで、柳内さんすみません、子供達をお願いします」

 言い終わらない内にお父さんはお土産屋さんへ駆けていってしまった。

「もうお父さんたら、思いついたらすぐの人なんだから。春海くんパパごめんなさい」

 お姉ちゃんが呆れ気味に春海ちゃんのお父さんに謝罪する。試合前の時と比べて、緊張無く喋れている様に見えた。

「大丈夫だよあずちゃん。
 それにしても今日は盛り沢山だったね、すごく楽しかったよ」

 また日を改めてお礼をしなきゃね、うんと伸びをして春海ちゃんのお父さんは言った。

 宣言通りにお父さんがすぐに戻ってきて、バット3本で組み立てるタイプのスタンドホルダーを買ってきてくれた。

「おとうさん、それはるみちゃんに渡して。最初ははるみちゃんが飾るから。いいよね?」

 思うより先に口が出た、みんなビックリして僕を凝視する。

 言ってしまった後で、ひとりで突っ走ってマズかった? と肩を縮こませたけれど、

「たつみいいのか? おれが一番で。ありがとなぁ」

 顔をほころばせて春海ちゃんが受け取ってくれたのでよしとした。

 樹深がこの一日でひと皮けた! とお父さんが感慨深げに頷いた姿を、未だによく覚えている。





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