はるみちゃんとぼく

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「えっ、い、いいんですか? だって、記念ボール…」

 兼庄選手以外の誰もが思った事を、うちのお父さんが代弁する。

 兼庄選手はハッハと笑って、こう続けた。

「前から決めていた事なので。記念ボール第1号は応援してくれた誰かにプレゼントするって。
 大切にしてくれたら、嬉しいけど」

 ボールと共に爽やかなウインクを貰った僕達は、すっかりのぼせ上がった。

「ありがとう、ございましたっ」

 再びホームランボールを手にした僕達は、キャッチした時以上に喜びに震えて、さっきよりも深く深く頭を下げた。

 その頭を、兼庄選手は順番に優しく撫でて──本当に大きな手だった──、お父さん達とも握手を交わして、ロッカールームへ軽やかな足取りで消えていった。

「いやあ…できた若者ひとですね、兼庄選手」

「本当に。よかったな、春海ちゃん」

 兼庄選手の人柄にホクホクのお父さん達は、改めてホームランボールに目を留めて、感嘆の溜め息を零した。

「うん、でも、おれだけのじゃないから。たつみのでもあるし、あずさねーちゃんのでもあるし」

 誰が持って帰ったらいい? ボールをこねくり回しながら春海ちゃんが考え込むのを見て、僕も一緒に考える。

 ひとつ思い浮かんで、思いきって伝えてみた。

「えとさ、あのさ、期間決めてさ、順番に回してこうよ」

「たつみ、ナイスアイデア! そうしよ」

 ガハハと笑って春海ちゃんは僕の背中をバシバシ叩いて、いたたと思いながらも、採用された嬉しさが勝っていい気分。

「さあさ、盛り上がるのはそこまでにして、そろそろおいとましよう」

 春海ちゃんのお父さんが僕達を後ろから両腕広げて包んで、スタッフさんに視線を送りながら言うと、

「それでは、上のエントランスまでご案内しますね」

 嫌な顔せず待っていてくれたスタッフさんは、僕達によかったねと声を掛けてから、出口へと導いた。





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