はるみちゃんとぼく
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でも、ホームランは兼庄選手のあの一本きりで、攻守共に絶好調だった彼に本日の最優秀選手の名誉が贈られた。
拍手喝采を浴びながらインタビューに応える兼庄選手を、僕達は見る事が出来なかった。
というのは、言われた通りスタッフさんにバックヤードに連れて来られたから。
──今日は勝利ではありませんでしたが、唯一のホームラン、おめでとうございます!
──ありがとうございます。念願の一軍での夢をひとつ叶える事が出来ました。
声援を送って下さった皆さんのおかげです──
薄暗い通路でそれを聞いていた。
「もう少ししたら選手達がここを通ってロッカールームへ行くので、ここで兼庄選手にサインを頂きましょう。
兼庄選手には予めお話ししてありますので」
スタッフさんは色紙とサインペンを両手にキビキビと説明した。
──それでは最後に、兼庄選手に今一度大きな拍手を!
インタビューの締め括りと最後の拍手が聞こえてしばらくすると、暗闇の奥からカチャカチャとスパイクを鳴らす音が聞こえてきた。
引き上げて来た選手達が通り、「お疲れ様でした!」とスタッフさんが頭を下げて挨拶するのに倣って、僕達も選手達に敬意を持ってお辞儀した。
事情を分かっているらしい選手達は、「応援ありがとう」「勝てなくてごめんね」「兼庄もうすぐ来るからね」僕達に優しく声を掛けながらロッカールームへと去っていった。
「プロ野球選手をこんな間近で見れるなんて」
「やっぱりオーラが違いますよね」
小声で子供みたいにはしゃいでいるお父さん達の姿が面白くて、僕は思わずクスリとした。
「…あっ、来ましたよ兼庄選手」
スタッフさんの声に、僕達は再び暗闇の奥に目を向けた。
カチャカチャと、先程とは速いリズムで音を響かせると共に、走ってくる兼庄選手の姿が現れた。
…