はるみちゃんとぼく

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「春海ちゃんやったな、幸せのホームランボール」

 お父さんが春海ちゃんのボールを包んだ両手をさらに包んで、ぶんぶんと上下に揺らした。

 ニシシと笑って、「とうちゃん持ってて」バッグを持ってきていない春海ちゃんはボールを春海ちゃんのお父さんに託して、兼庄選手に続く打撃線に声援を送ろうとしたのだけど、

「あの、すみません」

 僕達全員がその声に振り向いた。

 帽子を軽く上げ下げして挨拶したその人は、球場スタッフのネームカードを首から提《さ》げていて、とても申し訳無さげにこう続けた。

「先程のホームランボール、こちらに返却願います。
 兼庄選手の、1軍に上がって初の、公式試合でのホームランなので…記念ボールは選手に返す規約なんです」

「あ…」

 そうなの? 僕がお父さんに視線を投げると、そういえばそんな話聞いた事あったな、こめかみに手を当てて苦い顔をした。

「春海? お返しするけど、いいか?」

 春海ちゃんのお父さんも複雑そうな顔をして、春海ちゃんに確認を取る。

 春海ちゃんは…頷くしかなかった。

 ボールがスタッフさんの手に渡ると、深々と頭を下げて、

「ありがとうございます。
 代わりといってはなんですが、直筆サインの色紙を差し上げます。
 試合終了後にバックヤードにご案内するので、また後ほどお声掛けしますね」

 ひとしきり言ってしまうと、声援の渦に飲まれて姿を消した。

「そっかあ…残念だけど、しょうがないのかな。
 春海ちゃん、大丈夫か? 試合終了まで応援続けられそう?」

 うちのお父さんの気遣いに、春海ちゃんは「うん大丈夫大丈夫」と言って、メガホンを掲げて応援を再開した。

 その姿にほっとした皆は、さっきと同じ様に応援に熱を入れ始めたけど、

「…ボールがよかったな」

 春海ちゃんのつぶやきを拾ってしまった僕だけは、切なく響いたそれをうまく処理する事が出来なかった。





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