悠の詩〈第3章〉

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「あー、よく見えないかなぁ。あそこ、高いビルがいっぱい建ってるでしょ。そこから右へ…行くとほら、橋の灯り分かる?」

 俺ら男子が螺旋らせん階段を上がって展望台の頂上へ出ると、北東の方角を差して由野が柏木にあれこれ説明していた。

「その間に港があってね、そこに停泊している船が一斉に汽笛を鳴らしてるんだって。
 商店街の途中に川が横切ってたでしょ? あの川沿いにずっと行くと…2時間くらいかかるかな…そこに出られるんだよ。
 結構遠くにいても聞こえるもんだよ。うちからも聞こえるし」

 そうそう、僕ん家も、俺ん家からも、一度も近くに行った事ないけどな、人ごった返してるだろうしね、ガヤ的な俺らの掛け合いも柏木はしっかり拾っていて、うんうんと頷いてみせた。

「ふぅん、そうなんだ。いいね、鐘代わりの汽笛か…ふわあぁ、っと、ごめん」

 年が明けて気が抜けたのか、やたらと大きい欠伸あくびをした柏木、慌てて口を押さえたって無駄無駄(笑)

「さぁ睡眠不足のヤツもいることだし、早いとこ課題済まそうぜ。メシはその後でいいだろ?」

「柳内くんの言う通りでいいよ、ほら、柳内くんが星座見つけてくれるんでしょっ」

 由野がおもむろに俺の背中を押すもんだから、大袈裟に、いや由野が馬鹿ヂカラだった事を忘れてた、よろめいて危うく足を挫く所だった。

 ひとしきり笑った後、俺達は固まりながら星空を眺めた。

 見つけてやると意気込んだものの、星に関してはド素人な俺(と丸山)は、こうも沢山星が瞬いていれば、天文部の三人の解説が無けりゃお手上げだ。

 冬の大三角形って言ったっけ、あそこに三つ星が並んでるよ、そうそうオリオン座の三つ星、そこからちょっと上に行くと赤い星無い? あった、あれが三角点のひとつのベテルギウスで、左に行くとまた明るい星があるんだけど分かる? おーあるある、あれがふたつ目のプロキオン、で、そのふたつの星から下へ…

「あっもしかして、シリウス? 星座の中で一番明るいっていう?」

「へーっ丸山くん詳しいね?」

 丸山の言葉に樹深が目を丸くして感嘆すると、えへへと丸山ははにかんで、こりゃ電車絡みの知識かなと思いきや、

「えーとね、星に詳しいわけでも何でもなくて。
 僕、田舎が青森でいつも高速バスで行き来してて…そのバスがシリウスっていうの。
 小さい頃に親が教えてくれてね、それで覚えてただけ。
 もうすぐ、新年の集まりで向こう行くから、またシリウスに乗れるんだ」

 丸山の意外な素性に驚いたと同時に、思わずパラパラと拍手が沸いた(笑)





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