はるみちゃんとぼく
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「ああ、なかなかクサいとこ突いてくるなあ。兼庄やりづらそうだ」
野球に詳しいお父さんは、苦い顔をしながらも相手のピッチャーを褒めた。
カウントはツーストライクスリーボール、一度叩き出したファールはレフトのフェンスまで届いていた。
時折ビジョンに映し出される兼庄選手は顔に幾筋もの汗を流していて、いかに神経を研ぎ澄ませているかを物語っている。
「フレッフレッ兼庄! フレッフレッ兼庄! 皆さんの声が力になります! 兼庄選手に大いなる
団長さんが両腕を大きく広げると先程の応援歌のイントロが流れて、応援団のお兄さん達のリードで皆が唱和し出した。
「もえよーとうしー
うちなるちからをときはなてー
うてーうてーかっとばせー
われらーのーわれらのー
われらのちょーしんせー」
もうワンコーラス! あともう一丁! なかなか終わろうとしない応援歌。きっと結果が出るまで続くんだろうと察した。
さすがに僕もすっかり覚えて、春海ちゃんのお父さんの言った通り、メロディーに乗った声は出しやすかった。
お姉ちゃんが途中から声出しを止めてメガホン叩きに専念して、春海ちゃんも声が枯れだしてきた(それでも歌う事は止めなかったが)一方で、僕は今更ながら大声を出す事が気持ち良くなってきた。
その様子にお父さん達は満足そうに微笑んで、「たつみやっとエンジンかかってきたか!」春海ちゃんは更に上機嫌になって僕の背中をバシバシ叩いた。
いたた、とちょっと視線を落としたその時。
カキッと鋭い金属音と共に、わあっ! とレフトスタンドが揺らいで、僕の身体が宙に浮いた錯覚に陥った。
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