悠の詩〈第3章〉

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「う、ん? 別にいいいけど…」

 特に不思議とは思わなかった、丸山と同じで呼び慣れなかったんだと解釈する。

 でも、このタイミングで? いや、年明け前にということなら区切りはいいのかな。

「あの、ね、私、
 ……
 ……
 ……」

 由野が言葉を詰まらせる、というよりは掛ける言葉を迷っているようだった。

 いつもは軽快に、よく話すしこちらの話も気持ち良く受け取ってくれる、本当にいいヤツの由野のこんな姿は珍しかった。

「えーと…無理に理由を話さなくたっていいんだぞ?
 俺がいいって言ったんだから、それでおしまいでいい…んじゃねえの」

 そんなつもりは一切無いのに責めた言い方になってしまいそうで、自分も慎重に言葉を選ぶ。

 袖を摘んだ手が微かに震えているのが目に入ったから尚更、この大事な友達を傷付けまいと必死になった。

「えーとさ…由野が俺をどう呼んだってさ、何にも変わらないからさ、そんな事で態度とか変わるわけないじゃん。
 だからさそんな、気を張らないでさ、何でもいいぞ? やなやなでもハルハルでも」

 ここまで言ったところで、ずっと俯いたままだった由野が吹き出して、

「本当にそう呼んでいいの?」

 お菓子の袋を持った手で口を覆いながら顔を上げた。

 隠れていない両目をクシャクシャにして肩を揺らす姿を見て、いややっぱり勘弁だわと言いながら、ほっと胸を撫で下ろした。

「はる、柳内くん」

「おう」

「私が思う事、聞いて欲しい」

「おう、どんとこい」

 もう、いちいち面白いんだから、ひとつ笑って、俺を真っ直ぐに見た由野、

「柳内くんのいいところ、いっぱい知ってる。
 おどけっぱなしのようで、実はよく周りを見てるよね。
 困っている人を躊躇なく助けてくれるよね。
 明るくて、優しくて、そんな柳内くんを私は」

 ここで一旦切って、すうと呼吸をして、こう続けた。

「──とても誇らしく思ってる。

 柳内くんとは、友達でいたい、ずっと。

 だから、友達らしく、柳内くんと呼びたいです」

 以上です、一歩下がって浅いお辞儀をした由野は、同時に摘んでいた手を放した。

 負荷がかかっていた俺の腕が軽くなって、色んな事の決着がついたような、そんな感じがする。

「りょーかい。
 そんじゃ改めて」

 ん? と由野が不思議そうに見つめたのは、俺が差し出した右のてのひら

「友情の握手シェイクハンドって事で」

 ああ! 柳内くんそれって○○で言ってたやつでしょ、ある少年漫画のワンシーンを知っていた流石な由野は、いつもの笑顔で俺の手を取った。

 震えのない、迷いのない、確かな友情の握手だった。





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