悠の詩〈第3章〉

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 由野はくまに視点を留めたまま動かない、微かに、え、と零したのは分かったが。

「あれ、好みじゃなかったか。まあちょっと子供っぽいか、ごめん。どうしようかなあ、誰か貰ってくれるかなあ」

 目の前で見てた樹深は何も言ってこなかったしな、柏木は…そんな柄じゃなさそうだし、案外丸山が好みかも? の辺りで笑いが込み上げてきて、由野もふふっと笑った。

 今年の内に貰い手を見つけてやれそうにないや、再びくまを内ポケットにしまいこんで、そういや今何時だ?

「由野、時計してたっけ」

「ごめん、今日に限ってしてくるの忘れちゃった…でもほら、観音様の鐘が鳴り始めてる。多分23時40分くらいだよ」

 ゴオン、と山の上から鈍く響いているのが聞こえた。

 参拝者がひとりずつ合掌を混じえながら叩いているので、次の音が鳴るまでに結構間が空くのだが、年末特有の静けさが相まって風情でいい。

「そろそろ落ち着いたんじゃねぇかな、向こう戻ってみるか。さすがに年跨ぎでアイツら待たせるワケにいかんよな」

 ひとしきりに言ってから商店街の方へ踵を返そうとした時、俺の右肘辺りが急に引っ張られた。

 何だ? 肩越しに視線をやると、由野がそこを申し訳無さげに摘んでいた。

 どうした? と声を掛ける前に由野は口を開いた。

「あの、春海くん」

「うん?」

「年が明ける前に言っておきたい事が、あって」

「うん、なんだろ」

「……
 ……
 ……」

 由野が何を言おうとしているのか検討もつかなかった。

 次の言葉をなかなか発そうとしない由野に対して、早くしろとか全然思わず、何か難しい事考えてんのかな、ともかく由野のいいタイミングを待つ。

 そのかん由野は摘んだ手を離さないでいて、タイミングが来たその時もそのままだった。

 ──由野が言いたかった事、それは。





「春海くん。

 また、柳内くんって呼んでいい?」





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