悠の詩〈第3章〉
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刻々と今の年が残り僅かになっていくのと反比例に、新しい年を待ち
俺と樹深は何度も人混みに押し潰されながら、見たい所は見て、夜食も無事買えたし、俺しかやりたがらなかったけど射的も。
6発500円、少しセーブしときゃよかったと後悔した夜食を樹深に持ってもらって、好きなゲームミュージックの円盤に狙いを定めてパシンパシン、全て当たったのに倒れなかった。
その内の一発が、跳ね返って一段上の小さなくまのぬいぐるみにヒット、コテンとひっくり返った。
「まあ…一応当たりだね、はいおめでとう」
これすらも無効にしたかった様で渋り顔だったが、店のオヤジはおざなりに俺にそれを寄越した。
「どうするの、それ」
樹深が覗き込んで聞いてくるが、特に宛は無かった。
でもラッキーヒットだったにしろ立派な戦利品、とりあえずあとの三人に見せびらかしておこうかと思う。
「あらら、時間大分迫ってるよ。急がないと」
「悪ィ、俺ちょっとトイレ。先に行ってて。あ、またこれら持っててくれ」
待ち合わせ場所の近くまで来て尿意を催した俺は、持ち物をまた樹深に託してすぐそこにあるはずのコンビニを目指した。
お詣りの列が階段下から更に伸びて、商店街の中にまでいってしまいそうな勢い。
少しの隙間を見つけて「すんません、通らせて下さい」悪いと思いながら横切らせて貰った。
無事に用を足して、ハンカチを出そうとズボンのポケットに手を突っ込むと、先程のくまをそこに入れていたのを忘れてた。
こいつはここに居て貰うか、ドカジャンの内ポケットに忍ばせたがここにも先客、丸山に貰ったカイロ。
大分熱を持っていて、一緒に入れてたら焦げるかも? まさかなぁと思いつつ、念の為カイロはドカジャンの腰ポケットに移動させた。
「どうよ、あったかいだろ?」思わずくまに話しかける。昔々、梓ねーちゃんと樹深とでぬいぐるみままごとをやっていた、その頃の記憶がふっと表に出てきてしまったらしいや。
…