悠の詩〈第3章〉
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いよいよ迎えた、12月31日。例年なら家族でお笑い番組を観ながら年越しの瞬間を待つけれど、
「みんなからはぐれちゃダメよ! 危ない場所と人には気を付けなさいよ! 破魔矢と御札、絶対忘れないでよ!」
騒がしいかあちゃんの見送りと、まあまあもう中学生なんだからと穏やかに宥めるとうちゃんを背にして、
「おーけーおーけー。じゃあ行ってくるわ〜」
いつぞやのカレーの照井さんの口真似をしながら俺は家を出た。
誰か、今日のメンツか知り合いかに途中逢うかと思ったがそんな事も無く、一番乗りで学校の正門に到着した。
腕時計をしてくるのを忘れてしまって、学校の屋外時計を見やると22時までまだ10分以上もあった。
「あっ柳内くーん、こんばんは。寒いねぇ」
「おーっす丸山。早ぇな、まだみんな来ないぞ?」
夏の時に由野の春海くん呼びに乗っかってた丸山だったが、調子が狂うのか「やっぱり柳内くんで」と早々に
お前が春海呼びするなら俺も名前で、
「まあまだ時間じゃないしね。あ、よかったらコレ使ってよ」
いつものマルコメ頭にニット帽、タータンチェックのマフラーをグルグル巻いてあったかそうな丸山は、バッグから未開封のカイロを出して俺に渡してきた。
「おー助かるぅ。って、お前が使うヤツじゃないの」
「大丈夫大丈夫。僕のも、あとみんなの分も、沢山持ってきてるから。ほら、天体観測するでしょ。夜通しだから凍えちゃうよ。
もしカイロの効果無くなってきたら言ってね、新しいのあげるから」
さっすが、用意周到の丸山。ありがたくカイロを頂戴して、部活で使っているドカジャンの内ポケットに忍ばせた。
カイロがじんわりと熱を持ち始めた頃、丸山が来た方向とは真逆から、強い光が俺達を照らした。
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