悠の詩〈第3章〉
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「ちょっと春海、アンタ今ヒマならこっち手伝いなさいよ」
「いいけど、ちょっと待って」
リビングの大窓を拭き掃除しているかあちゃんにそう言いながら、由野ん家の電番をプッシュする。
RRR、RRR、3コール以上鳴ったが出ない。
出掛けてるのかな? 10鳴らしても出なかったら掛け直そう、そう思ったところでガチャリ、ひと呼吸置いて声が聞こえたのだが、
「はい、由野です。どちら様ですか」
男の声でびっくりした。お父さんか? にしては声質が若い気がする。
「あっ、もしもし。由野…琴葉さんと同じクラスの柳内です。琴葉さん居ますか?」
少しつっかえながら伝える内に、あ、もしかして由野のお兄さん? と考えが行く。
「居ますよ、今代わりますね」
年下の俺になんとも丁寧な対応をしてくれるなと感心していたのだが、
(──おーい琴葉ぁ、オマエに電話、オ、ト、コ、か、ら)
受話口を手で塞いでいるからと油断しているのか、ガラッとおちゃらけた物言いになる由野
数秒して、別の気配が感じられた。多分由野が傍まで来た。
(──やめてよお
(──えーと、ヤナウチ君だって)
ひゃっと声を上げたのが聞こえたと思ったら、ガチャガチャと電話の向こうが騒がしくなって、一瞬間があってから、
「──もっ、もしもしっ、春海くんなの? えっ、なんで? どうしたの?」
混乱した様子で由野が出た。
(えへーっ、下の名前で呼んでんのー?)
由野兄がうちのかあちゃんと同じ様な調子でちょっかいを出すのを、
(もうお兄! うるさいからあっち行って! 話が出来ないでしょうが!)
由野がドスを利かせて一喝したので、すぐに電話の向こうは静かになった。
「…うちの兄が、大変失礼しました」
深い溜め息の後、由野は呆れ気味にそう言った。
「いやー? そんなことないけど。やっぱりお兄さんだったか。
お母さんか由野が出ると思ってたから、ちょっとびっくりした(笑)」
学校ではあまり接触したがらなさそうだったけど、普通に仲いいじゃん、って思った事は言わないでおこう。
…