悠の詩〈第3章〉
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「──お前達こんな時間まで何をしている? 早く帰らんか!」
この緊迫した空気をぶっ壊したのは、勢いよく開いた引き戸のガラガラ音と、社会担当のおっかないおじいちゃん先生、
ひいっと心臓が跳ねた俺達、
「すんません!」
「今片付けるんで!」
「すぐ帰ります!」
「さようならあ!」
口々に言いながらバタバタと自分の荷物を掻き集めて担ぎ上げて、一目散に教室を、昇降口を飛び出した。
相馬先生は追いかける素振りを見せはしたが、実際は廊下にほんのちょっと出ただけで止まって、「暗いから気を付けて帰りなさい」厳しい声と真逆の言葉を俺達に送った。
「──はあっ、び…っくりしたあ」
グランドを抜けて正門をくぐる所まで全力疾走、ここまで来りゃ大丈夫だろと足を止めて振り返った。
みんないるかと思ったら柏木ひとり。と、少し後ろの方で「春海ちゃん待ってよ〜、速いって〜」と樹深がのんびりゆったりこちらに向かっていた。
由野と野上さんとやらは? 夕闇に目を凝らして探してみると、二人は裏門から出るようだった。
「長居し過ぎたね。私先行くから。キミらも早く帰りなよ」
俺の横を通りすがりながら柏木は言った。
オマエ、占い最後まで聞けなかったけどいいのかよ、あんな、よくなさそうなのばっかり並べ立てられてさ…
とここで柏木が急に振り向いたので、俺の心の声が聞こえたのかと思ってぎくりとした。
でもそうではなかった。柏木の視線は俺を通り過ぎていて、一拍置いて「悠サン、また明日!」と裏門から声を張り上げた由野を捉えていた。
それを受けて、目一杯右腕を天に突き刺して二、三度横に振った柏木は、ふと頬を緩めて、今度は俺には何も言わず帰途へ駆けていった。
「柏木さん行っちゃった? バイバイしてないや(笑)」
やっと樹深が追いついてそんな事を言うので、
「俺らも早く帰れだとよ、やべえな、母ちゃんの雷も落ちるかもしんねぇや(苦笑)」
お前何でそんなのんびりなんだよ、と背中を叩いて樹深を急かしながら、足早に帰途に着いた。
ふと裏門を見ると、由野と野上さんとやらがまだいた。
ねえ琴葉ちゃん、うんたらかんたら、うんと距離が空いているから聞こえるわけがないんだけど、そんな風に見えた。
実際には分からない。
…