悠の詩〈第3章〉
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「どうぞ、聞きたい事言って下さい」
きれいにひと山にまとめたカードを自分と柏木の間に置いて、野上さんとやらは促した。
柏木は少し考えた後、
「じゃあ…3学期の自分の運勢、お願いしていいですか。出来ればさっきの…柳内のと同じやり方で」
遠慮がちに提案した。らしくねえな、と思ったけど、さすがの柏木も彼女には差し障りなく接するのがいいと感じたようだ。
「…詳しく知りたい感じですか」
「あ、出来たら、でいいん」
「いいですよ、やりますよ、はい、混ぜて下さい。丁寧に念じて下さいね」
彼女は柏木の言葉に被せ気味に放って、ずいとカードを柏木に寄せた。
ちょっと乱暴過ぎやしないか、ほら、柏木が若干後ろにのけ反ってる。
でも柏木は間髪入れずに彼女の指示通りにした。やけに神妙な
柏木の様子に機嫌をよくしたのか、野上さんとやらは少し口角を上げて混ぜ終わるのを待っていた。(俺の時とだいぶ態度が違ってら)
それにしても柏木のヤツ、3学期の運勢だって? えらく具体的な、直近の事を聞きたがるもんだな。3学期、何かあるんだっけ…
「はい、混ぜました。お願いします」
柏木が混ぜ終えたカードをまとめて彼女の方にそっと寄せると、
「では、さっきと同じやり方で…今度はひとつひとつ
野上さんとやらはそう言いながら、まず1枚目を捲った。
「現在の状況…悪魔の正位置…何かに縛られている、がんじがらめ…」
2枚目を捲る。
「乗り越えるべき事…節制の逆位置…リズムが狂う、敵味方が分かれる…」
3枚目、4枚目、5枚目…
「目標…隠者の正位置…深く勉強する、規則を守り努力する…
今の問題の原因…皇帝の逆位置…愛情の押し付け、自分勝手…
近い過去…運命の輪の逆位置…予期せぬ変化、思わぬ誤算…」
(なんか、よくなさそう?)
樹深がこっそりと俺に耳打ちをした。俺もそんな気がしてる。由野に至っては祈る様に両手を組んで柏木の背中を見つめている。
「あの、あくまで占いだから、絶対ではないから」
野上さんとやらでさえ気を遣うような言葉を掛ける。
微動だにしない柏木、今どんな顔をしてるんだろう。こっちを向くわけないし、そっちに回り込むわけにもいかないし。由野と同じに背中を見つめるしかなかった。
6枚目、「近い未来…」と彼女が進めていくのと、最終下校のチャイムが鳴り響いたのがほぼ同時で、それがやたら遠くの出来事の様に霞んで見え、聞こえた。
この占いの行方が一体どうなるのか、自分には関係ないのに異様に集中して固唾を飲んだからだろう。
…