悠の詩〈第3章〉

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 は、と短い溜め息をいてから野上さんとやらは続けた。

「1枚目、現在の状況。死神の逆位置…初心に戻ってやり直す。再出発。

 2枚目、乗り越えるべき事。節制の正位置…大衆を大切に。正しいリズムを繰り返す内に進歩する。

 3枚目、目標。審判の正位置…復活。再び好調な波に乗る。

 4枚目、今の問題の原因。愚者の正位置…うーん難しいな…1枚目と関連するから…方向転換? リスタート…

 5枚目、近い過去。力の正位置…自信に溢れる、難しい事にチャレンジ。

 6枚目、近い未来。吊られた男の正位置…今は損でもやがて報われる、耐える価値あり。

 7枚目、隠された本音。運命の輪の正位置…チャンス到来、良い変化。援助者、協力者の出現。

 8枚目、周囲の状況。太陽の正位置…誰にでもオープン、明るく力強い人。

 9枚目、将来の気持ち。世界の正位置…完成。目標を高く、着実に努力をすれば成功。

 10枚目、結果。女帝の正位置…理屈抜きの楽しさ。豊かな心。

 …カードの説明は以上で、これらを踏まえて総合的に見ると…」

「…悪くは、なさそう?」

 俺に口を挟まれてまた眉間にしわを寄せた彼女だったが、その視線はカードと本を行ったり来たりして、幸い俺には刺さらなかった。

「そうですね…
 今は部員足らずで苦しい時かもしれないけど、段々とよくなっていくみたいです。
 あなたの人柄が、協力者を呼び寄せる…とも読み取れそう。
 周りと歩調合わせながら努力すれば、願いは叶いそうです」

 あくまで占い、絶対ではないから、と強調して彼女は俺の占いを締めとした。

 俺は思わず感嘆の溜め息をしたし、後ろの三人はパチパチと拍手して「春海ちゃんがそのままカードに出てた」だの「めっちゃ柳内だった」だの言っていた。

「じゃあ今度こそ、琴葉ちゃんの番ね」

 並べたカードを再び手元に掻き集めながら野上さんとやらが言うと、

「あっちょっと待って! 先に悠サンをお願い、聞きたい事あるって言ったよね? 私はその次でいいから、ねっ」

 「え」と漏らした柏木を由野は無理矢理席に座らせた。

 それに押し出されて椅子の横から転げ落ちた俺の事なんかはお構い無し。

「ちょ、琴サン、私は…」

「琴葉ちゃんの番って、最初から言ってるのに、何で…」

 戸惑う柏木と今にもいきり立ちそうな彼女の事もお構い無し、何でか分からないけれど由野が必死に遮る。

「これで最後だから! 次こそは私で、ねっ、お願い千咲ちゃん」

 両手合わせで頼み込む由野を、複雑そうに見つめる野上さんとやら。

 樹深でさえ転がった俺を起こす手を止めるほどに空気が痛く張りつく、無駄に動悸がしたのだが、

「…わかったよ、次、絶対だよ」

 彼女が折れた事で空気が緩んだ。

 …そう言った彼女の言葉は、若干震えているように聞こえた。





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