はるみちゃんとぼく

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「ホームランボール? 欲しいの?」

 また僕の陰からお姉ちゃんが身を乗り出すので気を遣って後ろにのけ反った、おかずを口に入れたままだから少し苦しい。

「うん。獲れると幸せになれるんだって」

 と言いながら、春海ちゃんは自分のお父さんに視線を送る。

 それを受けた春海ちゃんのお父さん、ふと目が泳いだのは…気のせいだろうか。

「へえ、そんなジンクスがあるんですか? たしかにご利益ありそうですもんねえ、ここにいる皆欲しがるでしょ」

 うちのお父さんが感心しきりに言うのにも、曖昧に笑って…いる様にも見える。

「でもホームランなんて、そんな簡単に出るもの?」

 お姉ちゃんの言葉に「それだよなあ」お父さんが唸った。

「難しいですかね、やっぱり」

「まあプロ野球だし出るでしょう、ホームランは。でも外野まで距離ありますしね。しかもこんな後ろまで…来たらすごいと思いますよ」

「うーんそうかあ。
 だって、春海?」

 お父さんの話に春海ちゃんのお父さんがふんふんと頷いて、最後に春海ちゃんに振った。

 ここまで、春海ちゃんはお弁当を黙々と頬張っていて、眉間にしわを寄せていた。

 お父さん達の話にガッカリした? と思ったら、残りわずかのお米とおかずを勢いよく掻っ込んで「うっし」と言って立ち上がった。

「ホームランボール獲るぞー!
 ホームラン来いー!
 ホームラン打ってくれー!」

 春海ちゃんの雄叫びに、応援団のお兄さん達が「坊やよく言った!」と褒めそやして、後半戦に向けて声援のエンジンを掛けだした。

 チームの応援歌をBGMに、他の観客もボルテージが上がる。

 整備が終わり、選手達や主審達がそれぞれの配置に着く。

「たつみ、食ったか?
 これでまた目一杯応援出来るな!」

 一番最後に食べ終えた僕に、春海ちゃんがメガホンを渡してニカッと笑った。

 ホームラン出るかな。出るといいな。春海ちゃんが獲れるといいな。

 流れ星に祈るみたいに心の中で何回も唱え、その間にアナウンス無く試合再開された。





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