はるみちゃんとぼく
11/23
「樹深は、学校ではひとりでいる事が多いよ。
廊下とか校庭とかよく出くわすんだけどね、だいたい私の友達に構われるわね。
クラスの男子達にも何故か気に入られてるしさ(笑)」
僕が返答を言いあぐねていると、お姉ちゃんが僕の体の陰から身を乗り出して、一つ向こうの春海ちゃんにそう言った。
お姉ちゃんの友達とか同級生とか、話しかけられるのは一向に構わないのだけど、それが例えば僕が、誰かに声を掛けようとした時に「あっ後藤の弟くんだ!」遮られてうやむやになるのが…ちょっと嫌だった。
かと言って、強くも言えず、巧くもかわせず、流されて嵐が去るのを待った後はいつも、ひとりだった。
ふーんそっか、少し考える素振りを見せて春海ちゃんが言ったところで、「スリーアウト! チェンジ!」主審のジャッジがマイクを通った。
気付けば5回ウラを終えていた。0‐0のままどちらも譲らない状態が続いている。
選手達が攻守共にベンチへ引っ込むと、球場スタッフがトンボを持ってゾロゾロ出てきて、グランドの整備を始めた。
ボコボコになった土をああやってならすんだよと、春海ちゃんのお父さんが教えてくれた。
「とうちゃん〜、いつ、お弁当食うんだ?」
腹と背中がくっつきそうだよ、大げさに身振り手振りをする春海ちゃんが面白くて、僕達は大笑い。
「悪い悪い春海ちゃん、おなか空いたよな。ちょうど休憩タイムだし頂こうか。
飲み物もカラだよな? また売り子さんから買おう。柳内さん、ビールおかわりでいいですかね(笑)」
買ったお弁当を配ったり売り子さんを呼んだりと、うちのお父さんがテキパキと動く。
あずちゃんまた好きなの頼みな、春海ちゃんのお父さんに言われてまた顔を赤くするお姉ちゃんをよそに、僕と春海ちゃんはシューマイ弁当を頬張った。
美味しいな、春海ちゃんと一緒だし、この時間がずっと続いたらいいのに。
そんな事をぼんやり思いながら、スタジオの風景をこの高い位置から目に入れていると、
「ホームランボール、取れるかなあ」
僕とおんなじような調子で、春海ちゃんがぼそりとつぶやいた。
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