はるみちゃんとぼく

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 ダンダンダン、ダンダンダン。かっとばせ、かっとばせ、レフトスタンドへ。皆さんご一緒に、せえの。

 最前列にいる応援団のおにいさん達が唱和を求めると、周りの人達があらん限りの声を出した。

 春海ちゃんもお姉ちゃんも、僕のお父さんも春海ちゃんのお父さんも、買ったメガホンやフラッグを使ってその波に乗る。

 そんな中僕だけ、みんなと同じ様に声を出す事が出来なかった。

「たつみもっと声出せ!」

 隣で春海ちゃんが叫んで、そう、叫んでいるのすら霞んで聞こえて、うねる声援にすっかり萎縮してしまった。

 チームの攻撃はヒットを2本出したけど、相手の守備に阻まれてすぐに三つアウトを取られ、攻守交代となった。

 この入れ替わりで、観客席の熱が一気に下がる。

 「さあーまずは堅く守っていこうー、フレッフレッ○○○○」応援団のおにいさん達が言いながらリズムを刻むけど、攻撃の時のような勢いは無く、相手チームの声援に掻き消されそうになっていた。

「ちょっとアイドリングタイムかなぁ」

「ですねぇ」

 お父さん達がふーっと息をついて、残ったビールに口を付けながら笑い合った。

「アイドル? タイム? ってナニ?」

 春海ちゃんが首をかしげて聞く。僕も、どうやらお姉ちゃんも、分からないので同じ様に疑問の視線を投げた。

「うーんと、休憩ってことかな。ずっと全力応援じゃバテるでしょ。ちょいちょい力抜かないとね」

 お父さんがそう説明するのを、春海ちゃんはふんふんと聞いて、

「おしっ、じゃあ次の攻撃の時にまた目一杯応援するぞーっ。たつみ、次は声出してくぞ! なっ」

 と僕の背中を少し強めに叩いて意気込んだ。

 うん、と返事をしたものの、困ったなと内心思った。

 家ではあまり感じる事はないんだけれど、僕の声は他の人より通りが悪いようで、聞こえなかったり聞き返されたりする事が多い。

 小学校に入ってからそれが顕著になった。「もっとはっきり言ってくれないとわかんねえよ」悪気は無いと分かっていても、ちくりと痛かった。





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