はるみちゃんとぼく

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 試合開始5分前、袋をガサガサ言わせながら──お父さん達はお弁当の入った袋を、僕達は応援グッズの包装を解きながら──指定の席に着いた。

「えーっこんな遠い席なの? 全然見えないじゃん」

「まぁなぁ、でもほら、スクリーンがあるから選手達の様子は分かるよ」

 お父さんはそうなだめたけど、それでもお姉ちゃんはまだ不満そうに頬を膨らませたままなので、

「あずちゃん、何か飲み物頼もうか。売り子さんが来てるから、声掛けてみよう」

 春海ちゃんのお父さんがすみませーん、と大きく手を上げた。お姉ちゃんは縮こまって「ありがとう、ございます」と顔を赤くする。

「春海、タツくんも、飲み物好きなの頼みなさい。後藤さん、僕らはビールでいいですかね?」

「もちろん、それが楽しみで来てるようなもんです(笑)」

 春海ちゃんのお父さんにすっかり心を許したらしい僕のお父さんは、家にいる時と同じ様に笑って、買ってきたお弁当を僕達に配った。

「私オレンジジュース。樹深と春海くんは? そこから選んでだって」

 お姉ちゃんが売り子さんから渡されたメニュー表を僕達にも回してきた。

「おれコーラ!」

「ぼくは、えっと、あの、はるみちゃんと同じの」

 まねっこ~、と春海ちゃんはキシシと笑い、あんた炭酸平気なんだっけ? とお姉ちゃんは少し心配げに言う。

 確かに普段はお水かお茶、たまにフルーツジュースを飲むしかない僕。でもこの特別な空間で、春海ちゃんと同じ様にしたい気が大きく膨らむ。

「それじゃあとりあえずみんな、野球観戦楽しもう。かんぱーい!」

 お父さんが音頭を取ってみんなで乾杯したと同時に、「プレイボール!」試合が始まった。

 みんながグビグビと喉を潤す中、僕だけちびちびとコーラを少しずつ流し込んだ。やっぱり炭酸がきつくて、喉がヒリヒリするや。





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