悠の詩〈第1章〉

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「柏木さんは? 何か考えてる?」

 今度は由野が柏木に振る。

「私? は…」

 視線をさ迷わせた柏木に気付かないで、俺がしゃしゃり出る。

「バスケ、あるいはバレー? タッパあるもんなお前。先輩達から勧誘来るんじゃね?」

 あー似合いそうだね、と皆も納得の中、柏木が密かに俺を睨んだ、気がした。

 その直後、朝のHRのチャイムと同時に土浦先生が入ってきたので、話はそのまま流れた。

 皆がそれぞれの席に着く喧騒の中、柏木は小さく息を吐いて、ボソリと言った。

「…多分、部活には入らない」

「は、あ? うそだろ」

 独り言を拾われてるとは思ってなかったみたい、柏木は目を丸くして俺を見た。

「部活には絶対入ってないとダメだってよ。どんなワケでもダメだろ、多分?
 部活っていやアレだ、ほらー、青春の1ページ! やんないなんてもったいないし」

 やたら熱心な俺に柏木が若干引いてるように見える(苦笑)、けど、その内ふーっと息をついて、

「家の事情、って言ってもダメかな…先生に聞いてみよ」

 俺を見ないで、また独り言のようにつぶやいた。

 家の事情? なんだよソレ。

 そう柏木に聞けるチャンスは訪れなかった、HR、授業とそつなく流れていったから。





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