悠の詩〈第3章〉

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 そこからまた少し日数が経って、授業が午前だけのある日。

 部活で昼を跨いで夕方まで学校にいた俺、帰る前に教室に忘れ物をした事を思い出して、夕日がうっすら差す廊下に足音を響かせた。

 日の短いこの時期は、最終下校も普段より早くなっている。もうすぐ当番先生による追い出しが始まる筈と、足早に1年4組の教室へ向かう。

「あれ」

 教室に灯りが点いていた。まだ誰か残っているのか。扉が少し開いていて、耳慣れた笑い声が漏れる。

「あっ春海くん。びっくりしたー、先生かと思っちゃったよ。今部活終わったの?」

 俺が更に広げた扉の音に振り返ったのは由野。

 樹深と柏木もいたから天文部の活動があったんだと推測出来るけど、そこにあの、野上さんとやらが同席している事に驚いた。

 一瞬目が合ったけどすぐに逸らされた、やっぱり感じ悪ィ。

「おー、お前らも部活あったんだな。
 こんなとこで集まって何してんだ? なんか楽しそうだけど(笑)」

 忘れ物を机から取り出してバッグにしまいながら誰にともなく問いかけると、由野がこんな事を言い出した。

「そうだ春海くんもやってもらおうよ、千咲ちさきちゃんいいでしょ? 沢山やるほど力がつくって言ってたよね」

 自分が立った席に俺を促す由野に、野上さんとやらは困惑した様子で「次は琴葉ちゃんの番でしょ」と言ったけど、「私は一番最後でいいから」とかわされて、は、と短い溜め息を零した。

「琴葉ちゃんにやってあげたいから残ってたのに」

 目の前の俺にしか僅かに拾えないそのつぶやきを、俺はどうしたらいいんだろう。っていうか、これから一体何をやらされるんだろう。

 彼女のじめじめした雰囲気に打ちのめされそうになる俺の前に、トランプより少しサイズの大きいカードが扇形に広げられた。

「じゃあ…占ってほしい事、具体的に教えて下さい」

 へ、とあっけにとられた俺の耳元で樹深が、

「野上さん、タロット占いの練習してるんだって。俺もさっきやってもらっちゃった」

 と言った。





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