悠の詩〈第3章〉

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 ともかく本日部活無し、帰った後遊ぶかと約束しながら樹深と正門へ向かう。

 その途中にある、グランドスタンドの端っこで、由野と、さっき教室に来ていた女子が座って話をしていた。

「あれー由野さん。先に帰ってなかったっけ」

 距離を詰めながら樹深がのんびり話し掛けると、由野ははっと顔を上げて、さっきの教室の時みたいに苦笑いをした。

「あーうん、ちょっとね。積もる話があるのよ」

 ねぇ琴葉ちゃん、さっきのちゃんと聞いてた? 俺達の存在なんて無いかのように、由野の意識を引っ張ろうとする…名前、何て言うんだ? 一切面識が無いから分からん。

「あらそう、じゃましちゃってごめんね。バイバイ、また明日」

 歩みを止めないままさらっと別れを告げて、そのまま由野達の前を通り過ぎた俺達。

 正門を出た所で肩越しに振り返ると、ねぇ琴葉ちゃん、うんたらかんたら、媚びたように聞こえる声が耳に障る。

「…なんだ、ありゃ」

 思わずつぶやいてしまうと、樹深もそちらをちらっと見て、

「俺達と同じ小学校なんだよ、野上のがみさん。
 俺は同じクラスになった事ないんだけど、由野さんが3、4年の時に一緒で…クラブも確か同じだったかな。
 2階の教室だから滅多に会う事なかったけど…こないだの文化祭で実行委員同士だったから、そこでまた話すようになったらしいよ」

 と俺に簡単に説明してくれた。

 ふーんと相槌を打ちながら、俺はあのせわしない文化祭準備の日々を思い返す。

 バンドの練習に追われていた俺達。実行委員として沢山動き回っていた由野。

 柏木となかなか話せなかったあの期間、代わりに隣にいたのがあの野上さんとやらなのか。

 普段女子にはこんな感情抱かないんだけど、なんだか感じ悪いな…そう思ってしまうのは、目を合わそうともしないあの態度と、由野の困り顔のせいだろう。

 柏木、アイツ、そこの前通ったんだろうか。いや多分、裏門から出たに違いない。





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