はるみちゃんとぼく

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 野球観戦当日。

 イッサの面倒を見てくれるおばあちゃんを迎えて、お母さんが出掛けるのを先に見送ってから、僕とお姉ちゃんとお父さんはバスを乗り継いでスタジアムに向かった。

 春海ちゃん達とはスタジアムのメインゲートの前で17:30に待ち合わせ。試合開始は18:00からだけど、席に着く前に色々寄らなきゃとお父さんが言っていた。

「あっきたきた。お~い、たーつみー」

 春海ちゃんが声を掛ける前に僕は春海ちゃんを見つけていて、そちらに走り出していた。

 「樹深周りよく見て」お父さんが僕を制止しきれずに声を上げるけど、僕は早く春海ちゃんの傍に行きたかった。

 春海ちゃんに手を伸ばした拍子に地面のへこみに足を取られ、転びそうになった所を春海ちゃんのお父さんが咄嗟に駆け寄って支えてくれた。

「タツくん大丈夫?」

 聞かれて、うん、と頷いたもののちょっと恥ずかしかった。

「とうちゃんナイスキャッチ」

 笑いながら春海ちゃんも駆けてきて、たつみはあいかわらずあわてものだな、と僕の頭をわしゃわしゃと撫でつけた。

 生まれたのは僕の方が先なのに春海ちゃんの方がお兄さんに見えて、僕はいつまで経っても幼児扱い。

 でも僕はこの関係性を嫌と思った事は無い。春海ちゃんと兄弟になりたかったとさえ思っている。(お姉ちゃんは時々意地悪になる事があるので尚更だ)

「柳内さんすみません、待たせた上にうちの樹深が。樹深ちゃんとお礼言った?」

 お父さんが謝りながら僕達の傍までやって来た。

「春海ちゃんのお父さん、ありがとうございました」

 ぺこりと一礼すると、春海ちゃんのお父さんは穏やかに笑って、

「どういたしまして。タツくんは礼儀正しいねぇ。そんなにかしこまらなくていいよ、春海と話す時みたいにおじさんにもしてくれるといいな」

 ちょっとやそっとの付き合いじゃないんだから、と小さくウィンクをした。

 その言葉と仕草に心がほぐれていると、春海ちゃんのお父さんの視線が外れて、僕のお父さんと、その後ろに隠れているお姉ちゃんを捉えた。

「いえいえ全然待ってないですよ、それより今日はお誘い本当にありがとうございます」

「あぁそんな、こちらこそ急に誘ってしまって…ていうかそもそもの提案はうちの奥さんなんだけど(笑)」

「それを言うなら、うちの奥さんも共犯ですから(笑)
 僕生で野球見るの初めてなんで、すごく楽しみなんです。
 みんなでガンガン応援しましょうね、ねっ、あずちゃん」

 急に自分に振られてひゃっと飛び上がったお姉ちゃんは、お父さんの背中からおずおずと顔だけ出して、「うん」と小さな声で返事をした。





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