悠の詩〈第3章〉

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 生徒会の演目が終わると、すぐに各クラスで展示の片付け、演劇クラスも散り散りになって片付けを手伝う。

 お昼を少し越えて、帰りのHRもそこそこに起立、礼、さようなら。

 俺達のステージについてアレコレ聞かれるかと思ったけど、コタ先生が「早く帰って休め」と促してくれたし、みんなのお腹もかなり限界だったようだ(笑)

 由野と丸山は俺達の話を聞きたそうにしてたけど、「後日詳しく聞かせてよね」という約束を取り付けて、ハイタッチのみで勘弁してくれた。詳しくは…まあ無理だけど(笑)、話せる所だけは話そうかと思った。

 三日間の文化祭はこうして幕を閉じた。



 ──のだけど。



 話はまだちょっぴりだけ、続く。



 その日の夜、夕飯を済ませて自分の部屋で過ごしていると、コンコンと控えめなノックの後に「春海? 入っていい?」とうちゃんの声が聞こえた。

「いいよ。おかえりとうちゃん」

 ベッドに寝転んでいた俺は腹筋で起き上がって、ドア向こうのとうちゃんに返事した。

 とうちゃんは開けたドアの隙間から顔だけ出してクスッと笑い、シィーと人差し指を立てた。

 俺はハハッと笑って、とうちゃんが座れるようにベッドの端に寄る。

「母ちゃんになんも言わないで来たの?」

「そう。柳内家男達のヒミツだから(笑)」

 そう言ってベッドに腰掛けたとうちゃんは、後ろ手に隠していた物を俺の前に差し出した。

 とうちゃんが愛用している、録音機能付きのウォークマン。

「え、これって」

「一緒に聴こうか」

 俺に全てを言わさず、とうちゃんはジャックに差しっぱなしのイヤホンの片方を、俺の片耳に嵌めた。

 そして自分の片耳にも残り片方のイヤホンを嵌めて、再生ボタンを押した。

 流れてきた音に驚く。

 ザワザワとうるさい喧騒をBGMに、【只今より、生徒会による演劇──】というアナウンス、そして、

(春海くん達の出番は後の方なんですがね。いやあ来て下さって、本当にありがとうございます)

(いえこちらこそ、昨日声を掛けて下さって本当にありがとうございます。春海の勇姿を見れるとは思ってなかったので──)

 コタ先生ととうちゃんの、そんな会話が流れてきたからだ。





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