悠の詩〈第3章〉

22/66

前へ 次へ


 柏木が台本に目を通している間に、「只今より、生徒会による演劇【旅路の果て】を開演致します」アナウンスが流れ、ブザーと共に舞台の幕が上がった。

 ギャラリーの拍手と共に副会長達扮する主人公パーティが登場、大きな身振り手振りで仰々しく台詞を連ねる。

「キミら、舞台観てていいよ。出番が近くなったら言うから」

 台本から目を離さないまま柏木がそう言うので、お言葉に甘えて樹深と並んで袖幕の陰から演劇を見守った。

 といっても、劇の内容は右から左へ抜けていってちっとも頭に入らない、迫ってくる出番にやっぱり緊張してきたからだ。

 樹深なんて、柏木に教えて貰ったおまじないを一向にやめようとしねぇし。

 開始から20分ほど経った頃に舞台が暗転した。暗闇の中で生徒会長達が次の場面での大道具を設置する。

「出番はまだもう少し後だけど、ここで衣装羽織った方がよさそうだ。
 しばらくしたら主人公達にスポットライトが当たって町に辿り着くくだり、それからまた明かりが点いて酒場に到着だよ」

 台本をパタンと閉じた柏木は、そばに置かれていた衣装を取って俺達に配った。

 昨日のリハで見た酒場の風景があっという間に出来上がって、でもまだそれは照らされない。疲労困憊の旅人を演じる副会長達のみに光が当たる。

「僕がカウンターからこっちに顔向けるから、そしたら出ておいでね」

 着替えた俺達の後ろからこそっと耳打ちをした書記先輩、そのまま暗闇のままのカウンターへ忍び足で向かっていった。

 わぁ、いよいよか、高揚感がマックスになりそうなところで、無意識に観客側に視線がいった。

 今こちら側も向こう側も同じ暗さなので、闇に目が慣れて姿が分かるようになっている。

 一番奥、出入口付近のライト担当の高浪もよく見えた。今主人公達を当てているライトは上両脇のものだから、高浪はちょっと休憩中のようだ。

 そのもう少し後ろでコタ先生が、腕組みしながらこの演劇を見守っている。

 とここで、コタ先生が誰かと一緒なのに気付いた。高浪の陰になっていて始めはわからなかったが、何かの拍子に高浪がしゃがんだ時、あっと声を上げそうになった。



(え、とうちゃん? え、何でいるの??)





22/66ページ
スキ