悠の詩〈第3章〉

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 3人で何回か通しをして、予鈴で一旦教室へ戻った俺達。

 朝の会が終わって、皆が体育館へ移動しようと廊下に並ぶタイミングで、高浪が俺達に声を掛けてきた。

「柏木さん後藤くん柳内くん、俺と一緒に来て。生徒会は皆が入る前にスタンバイなんだ」

 由野がこちらを見てたので、行ってくるわと軽く手を上げると、「がんばってね」と口パクをした。

 俺達が何をするのか知らないはずだけど、由野のそれは間違いじゃない。どんな時でも応援ってのは嬉しいもんだ。



 ギターと衣装を準備室に置いてきたままだった、2階へ駆け上ろうとしたところを高浪に止められた。

 コタ先生が朝の会前に全部運んでくれたらしい、それは早く言ってくれ。

 踏みかけた右足を無理矢理軌道修正したから、要らない怪我をしそうになった。



 体育館に着くなり、生徒会長が俺達の背中をグイグイと押す。

「君らはこっち。出番は後の方だけど、最初からここで待っててくれた方がいい」

 そう早口で言って俺達を舞台の下手しもてへ押し込むと、「さぁもうみんな入ってくる、幕を閉じるよ」スルスルと手綱を引いた。

 数分もしない内に、幕の向こう側で生徒達がガヤガヤと入場してきた。

 本来なら俺達も向こう側だった、なのに、何の因果でこうしているんだろう。

 ──全部、自分で決めた事だろうが。

 直前になって緊張が沸き上がる、さっき柏木に教えて貰った緊張ほぐしを無意識にやっていた。

 視界の端で樹深も、何度も深呼吸しながら親指を握っている。

 柏木はいつも通り澄ました顔で、でもやたら辺りをキョロキョロしていた。

「あのさ、キミら台本って渡されてる? 出番の前後がどんなか確認したい」

 柏木に言われて今更気付く、そんなの貰ってねぇ。出番が近付いたら誰かが指示してくれるもんだと勝手に思ってたけど、もしかしたら誰も手一杯でそうしないかも。

 するとその雰囲気を察したのか、人当たりのいい書記先輩が通りすがりに「僕はもう使わないから」と自分の台本を手渡してくれた。

 ありがとうございます、とその背中に声を掛けると、「緊張するよね、でもがんばろうね」歩きながらだったから最後の方は霞んでよく聞こえず、でも気持ちはよく伝わった。

 俺達の出番の所に折り目が、そんな所にも先輩の思いやりが感じられた。





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