悠の詩〈第3章〉
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いよいよ本番、文化祭最終日。
この日も皆が登校してくる前に練習をさせて貰えた、本当に本当の最後のおさらい。
音楽準備室に籠るのもこれで終わりか、ちょっと寂しさを感じながら扉を開けると、
「うわっ?」
「なんだよ、うわっ、て。失礼だな」
ギターを携えて振り向いた、既に体操着姿の柏木。知らない男子がいたと思ってびっくりした、というのは言わないでおこう。
樹深とコタ先生はいなさそうだ。
「お前だけ?」
「先生はさっき職員室に戻った。開門当番だからいないと変に思われるってさ。後藤くんはまだ来てない」
ギターをつま弾きながらそう答える柏木、相変わらず器用なヤツ。
俺も体操着に着替える、といっても制服の下に着込んであるので脱ぐだけ。
「昨日先生が話してくれたけど、昨日のリハよかったらしいね」
「ん? おー、まぁな。俺も樹深も調子よかったよ。
でも、本番これからだし。昨日は生徒会のメンツだけだったけど、今日は全校生徒の目の前だろ…うほーっ、緊張する」
そんな風には見えないけどね、柏木は笑いを含めた。
その通り、言う程緊張しちゃいない、ドキドキよりワクワクが
とはいえ、不安が全く無いかといえば、そういうわけでもない。
「さぁ、時間が勿体無いよ。不安が残らないよう練習あるのみ、どんな事でも、だろう?」
いつだったか俺が言った言葉を拾い上げて、ジャカジャンと弦を撫でた柏木。不思議とそれで気が引き締まる。
樹深がまだ来ないけどまぁいっか、俺と柏木で演奏を始めた。
柏木と音を合わせるのは3日ぶり、でも、今までずっと一緒に練習してきたかのような感覚。
単純に柏木が合わせるのが巧いんだろう、それとも、俺が柏木のレベルに追いつけたのか。
頭の隅でぼんやり思っていると、ガチャンと準備室の扉が勢いよく開いて、俺達はびっくりして顔を上げた。
「春海ちゃん、昨日寝れた?
俺…
…
…
全っ然寝れなかったんですけども…!」
息を切らしてカチカチにこわばった顔の樹深がそこにいた。
…