悠の詩〈第3章〉
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準備室での練習で立ち位置を教えて貰った時、何で俺達こんな端っこで固まって演奏しなきゃならねぇの、疑問だったが謎が解けた。
文化祭の最後を飾る生徒会の出し物は最終的に演劇に落ち着き、劇中のほんのワンシーンで俺達の演奏を披露するという。
「町から町へ渡り歩いている、親のいない少年楽団っていう設定なんだ。
この
生徒会長が、広げた台本を指でコツコツ叩きながら俺達に淡々と指南する。
なんか見た事あるな、と思ったらそうだ、柏木の父ちゃん。
もっとも生徒会長はあんなにがなり立てたりしないけど、話しながら気難しい顔をして頭をガリガリ掻くあたりがそっくりだと思った。監督? 演出家? ってのは、みんなそんな感じなんだろうか。
「え、じゃあ、俺達何か喋んなきゃいけない? んですか?」
思わずくだけた言い方になりそうになるのを慌てて直して、俺は生徒会長に聞く。
「いや、台詞はなし。でも、ジェスチャーはちょっと入れてほしいかな…ていうか、演奏だけって要望はそっちからでしょ? ねぇそうですよね先生?」
ステージの袖でライトの設置準備をしているコタ先生に生徒会長が視線を送る傍らで、俺と樹深は顔を見合わせた。
おーそうそう、恥ずかしがり屋だからあんまりアレコレやらせないでやってくれ、コタ先生がのんびり答えるのを聞いて、「俺達、そういうコトになってるの?」コソッと俺に言う樹深が可笑し過ぎた(笑)
まぁ多分言い出しっぺは柏木だろう、目立つのがキライだからな。
先生も早くこっち来て下さい、いない子の代わりやるんでしょ、生徒会長にせっつかれて、はいはいっと従順に俺達の背後に回るコタ先生。夫婦漫才みたいでこれもまた面白過ぎ。
先生と樹深にギターが渡り、そのふたりの背中を見ながらドラムの席に着く俺。
「──で、店主が客席の主人公達に、今から一曲始まりますと言って手を上げる、これが合図ね」
店主役の書記の先輩が、少しずれた付け髭を直しながら控えめに手を上げた。ここで俺がおなじみの、スティック4回鳴らしをすればいいんだな。
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