悠の詩〈第3章〉

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 結局、本番を迎えるまでに三人で音を合わせられたのは、火水の昼休みだけだった。

 コタ先生が、火水木金の早朝、皆が登校してくる前の30分間を練習に充てようと提案してくれて、でもこれに柏木は参加出来なくて、俺と樹深だけ。

 しないよりずっとまし、少しでも不安を無くしたかった。



 クラス展示の【なりきり美術館】は、一日目二日目共に大盛況。

 それぞれの役は平等にくじ引きで決められたんだけど、

「目玉アートは目立つヤツにやって貰わないと!」

 という、誰が言い出したか分からないこだわりが通ってしまって、一日目は高浪が、二日目は俺が、会場のど真ん中でギリシャ神話のポセイドンの彫刻に扮した。

 いかつい冠と強そうな杖、これでもかってくらいのもじゃ髭、荘厳な雰囲気も出してみる(と言っても、怒ったような顔をするだけだが)。

 高浪には「かっこいい!」「似合ってる!」「迫力ある!」など黄色い声が飛ぶのに、俺には「ちまい!」「こわくない!」「威厳が微塵も無ぇ!」もれなく笑いがついてきた(苦笑)

 おかげ様で、閉会式で発表された【一番面白かった展示ブース】に、生徒票保護者票共に一位を勝ち取った。

「お前達すごいなぁ、二日間お疲れさん。約束だったからな、先生からのご褒美だ」

 準備を始めた時から、もし投票でいい成績取れたらみんなに肉まんをおごってやる、と公約していたコタ先生(笑)

 約束通りホカホカの肉まんをみんなに配ってくれて、ありがたくご馳走になった。多分、票が集まらなくてもそうしてくれたんだろうけど。



 そんな二日目終了の余韻に浸ってみんなが下校した後で、いよいよ最終日に向けてのリハーサルが始まった。

 柏木はとっくに帰った。三人でステージでのリハーサル、これが出来たならどんなに心強かっただろう。





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