悠の詩〈第3章〉
14/66
「はっ?」
「えっ?」
「おいまじか」
男達が揃って声を上げたから、柏木は若干気圧されて後ろへのけ反った。でも視線は、コタ先生へ呆れ気味に送っている。
「まじかって、先生には言ったでしょうよ…あぁやっぱりあれは生返事だったんだ、あーあ」
柏木が恨むように言うので、先生は「いや聞いてたって、そうだったそうだった」白々しく言いのけた。
「ほんと申し訳ない…えーと習い事が…缶詰めにならないとマズイ状況になりまして…授業済んだらすぐにでも来いって…
クラスも部活も仕上げに取り掛かる段階なのに。キミらも…ここまで上手くなったのに。最後のリハーサルも多分行けそうにない」
この上なくすまなそうに言い訳をする柏木に、俺と樹深は目を丸くした。
顔を出せなくなる事より、滅多に聞けない柏木の褒め言葉の方を噛みしめて、つい口元が緩んでしまう。
「あー…まぁ…そういう事なら、しょうがねぇんじゃねぇの? ぶっつけ本番でもいいよ、その代わり、不安が残らないようにじゃんじゃん合わせようぜ。
どんな事でもそうだろ、野球でもそうなんだよ、俺。
あーっ、こうして話してるのももったいない、最後にもう一回演ろう、な」
後半かなり早口になった俺を樹深と柏木は笑って、気が急いてスティックを鳴らしてもちゃんとついてきてくれた。
俺達の演奏を、腕組みをして体でリズムを取りながら聴き入るコタ先生が、
「あと5日…あと…明日と明後日だけ…? そうか、まじかぁ…」
とつぶやいて、その直後5時間目の予鈴が鳴った。
…