悠の詩〈第3章〉
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家に帰って来てすぐに夕飯になった俺ん家、おかずを摘まみながら、
「春海、お昼のご飯代余ってるわよね? 後ででいいからかあさんに返しなさい」
かあちゃんがそう言った。
やっべぇ、お金貰ってた事すっかり忘れてた。照井さんにカレー代か、コタ先生にタクシー代かでそれ相応に渡してしまえばよかった。
「ナニナニ、春海どこか行ってたの」
「この子ってばたっくんと図書館行ったのよ~、珍しく勉強するって。雪でも降るんじゃないかしら(笑)」
かあちゃんがとうちゃんにそう言う間に、その辺に放り投げていた自分のリュックを手繰り寄せて、財布から五千円札を抜いてかあちゃんの前に置いた。
「あー、結局使わなかったんだ。
えーと、図書館で先生に…バッタリ逢ってさぁ。
お昼奢ってやるって…樹深とごちそうになったから」
うまくごまかせたか? 目を丸くしているかあちゃんの様子をうかがうと、
「あらそう、先生に…え、じゃあ、先生にお礼の電話をしなくちゃ!」
慌てふためいて行動に移そうとする、あぁ、言い訳失敗した! げんなりしていると、
「まぁまぁ、春海が学校で改めてお礼言えばいいんじゃない」
とうちゃんがナイスフォローを入れてくれたので、あらそう、そうよね、と着地してくれて助かった。
「あーと、それから、明日も樹深と勉強する事になってる、樹深ん家で。
多分午前中から夕方まで…誰もいないから来いってさ。
とうちゃん、俺行ってもいい?」
当初の予定では明日は、かあちゃんが樹深のお母さんと出掛けてる間、俺ととうちゃんで留守番か、どこか出掛けようかなんて話してたんだけど。
事情を知っているとうちゃんは、俺達が何をするのかすぐに合点がいったようで、含み笑いをして「いいよ、行っといで」と言ってくれた。
そうなの? じゃあたっくんのママに電話を…とかあちゃんがまたバタバタし出すのを、「まぁまぁ、春海が明日自分で挨拶するから、大丈夫でしょ」ととうちゃんがたしなめてくれた(笑)
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